ヤマト運輸,メール便,クロネコメール便,郵政民営化

1月22日ヤマト運輸がクロネコメール便を廃止する発表をしたことからネット上でも話題となった。既存のメール便は3月末で廃止となる。その理由は国の独占事業である手紙などのいわゆる「信書」がメール便に混在すると利用者が刑事処罰の対象になる恐れがあることから廃止を決定したという内容になっている。

しかし80年代から継続してきたこのサービスをなぜ今廃止しなくてはならないのか?という疑問は誰しもが抱くものだ。この背景には実に深くて長い総務省との暗闘が浮かび上がる。


突然に見えるメール便廃止の背後にある長い議論の歴史

もともと「信書」、つまり手紙の領域は日本全国で均一の利用ができるユニバーサルサービスであるべきで郵政の独占状態にあるが、ヤマト運輸もそれには基本的に同意している。ただこの郵政による独占領域の基準が常に曖昧なまま経過していることに同社は疑問を投げかけてきているのだ。

ヤマト運輸はこれまでこの「信書」という概念の撤廃を働きかけてきたが、直近では信書と信書でないものとの線引きの明確化を提言する方向に変わってきている。具体的には外形基準の導入により一定サイズ以下を信書とし、それ以上のものは非信書として扱うことを提案してきているのだ。しかしこのルールは総務省の判断に委ねられてきており、いまだにその定義もはっきりしないまま今日に至っている。


郵政の民営化で利用者自身が刑事処罰の対象となるリスクが顕在化

これまで郵政事業では信書に関する問題の調査権限というものは郵政検察局にあり、仮に違反があってもそれ以上の処罰の対象とはならなかったのだが、現在では、この調査権限が警察に移行することとなり、ルール違反は警察による取調べとともに刑事処罰の対象となっているのである。

したがって、このままメール便事業を行った場合、定義のはっきりしない信書の送付をめぐって利用者までもが刑事罰を受けるリスクが発生していることから、ヤマトでは利用者保護の観点からサービスの中止を決定している。


あえてサービスを中止することで社会的に問題を提起する狙いも

しかし、この時期を選んでヤマト運輸があえてこの事業の中止を宣言したのは郵政グループの上場前にこの議論を行い、信書の定義を明確にしたいという狙いも伺える。2013年度のメール便の取扱冊数は56億3,772万冊となり、シェアを見ると、「ゆうメール(日本郵便)」および「クロネコメール便(ヤマト運輸)」の上位2便で、96.0%を占めている。実際このメール便のサービスがなくなることで影響を受ける事業者や個人は少なくない。

ヤマトのこの事業からの撤退を契機として信書の定義や枠組み、外形基準の導入などにより民業の参入領域が明確化すれば、ビジネス領域はより拡大するという思惑も働いているものと思われる。


経営への影響は軽微

ヤマト運輸のこの決定により、従来のメール便ビジネスの1割にあたる個人利用者については完全にヤマトがその市場を失うことになる。年間2億件ともなれば決して小さなビジネスではないが、主要顧客である法人のマーケットに対し、メール便に変わるサービスを提供することにより、売り上げの落ち込みは軽微にとどまる見込みであるとしている。