利用層から読み解く労務・雇用問題の現状

無料”で法務相談を行うことは、他の弁護士の仕事を奪うことにはならないのだろうか。弁護士業界から民業圧迫の指摘が来そうなところだが。

この点、TECCとFECC両センターの運営に携り実際に相談対応もする多田猛弁護士は「いまのところ、そうした指摘は寄せられていない」と語る。

「相談者の約85%がスタートアップして間もない企業であるという、対象顧客の特性により、棲み分けができているのでしょう」(多田)

つまり、事業を開始したばかりの経営者の大多数は法務関係にまで十分な予算を設ける事は難しい。端から、民間弁護士を利用する件数は少ないのだ。

しかし、これは言い換えれば、創業したばかりの企業が十分な労務管理のためにリーガルサービスを利用することができない現実を浮き彫りにしているとも言える。この点、多田弁護士と共にTECCの運営に携っている倉持麟太郎弁護士は警鐘を鳴らしている。

「経営者の方々に『労務関係』への意識を持っていただく必要があります。もともと、アーリーステージの起業家の特性として、資金調達には熱心だが、労務管理やコンプライアンスに対する意識が薄くなりがちです。中小企業こそ、コンプライアンスを放置するのはリスクです。トラブルが起きてから対処するのではなく、如何に未然に防げるか。そのためには、法の知識も必要です」(倉持)

彼らは、まだ30代の若手弁護士ではあるが、従来の敷居の高いイメージの弁護士像とは異なる「新しい」弁護士像を語る。要は、「企業のコンプライアンスへの意識の向上」という彼らからのメッセージも込められているということか。「弁護士を身近なものにしたい」という思いも垣間見ることができる。

日本の産業構造が変わり、大小問わず多くの企業がグローバルな世界で戦うことが求められる時代、弁護士や社労士などの士業サービスが身近なものになることは望ましい(高い手数料にはなんとかなってほしいが……)。

企業誘致という政府・東京都の狙いと「新しい」弁護士・社労士たちの思惑とが交錯する線上で、経営者や労働者の相談に日々対応しているTECC。両者の狙いが絵に描いた餅に終わらず、実益を生むことを願う。(提供: Biglife21

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