M&Aというのは、株式をどう譲渡するかということで、よく、次期社長や役員を誰にするかという「経営の承継」と混同して議論される。別の言い方をすれば、資本をどのように承継するのかということだ。

この株式の承継が、経営の承継よりも大事になる瞬間がある。もしも株式の承継がうまくいかなければ、社長が特定の人物を次期社長に就任させようとしても、株式の承継の仕方によっては、代表者や役員を株主に選ばれてしまうことになりかねない。つまり、社長の想いが、何年後か、何十年後かにひっくり返されることも十分にあり得るということだ。


「買い」ニーズが譲渡ニーズの約5倍

では、M&Aの買い手はいるのだろうか。こちらは、全国からいろいろな情報が寄せられている。その中では、譲渡したいというニーズに比べて、買いたいというニーズが5倍以上もある。M&Aの買い手側のニーズがこんなにも寄せられるのは、「時間を買う」ことができるからだろう。

例えば、関東で強いビジネスを展開している会社が、関西で自社のビジネスをさらに伸ばそうとすると。その際、地域事業を展開しようとすればと、市場調査をして、プロジェクトチームを作って乗り込まなければならない。それに比べて、新規分野ですでに実績を出している企業を取得して参入するのではスピード感がまったく違う。M&Aを活用すれば、すでにあるブランドや店舗といった地盤を活用できるからだ。

一代で急成長したような会社を見ると、M&A抜きに、自力で成長した会社はほとんどない。


3つの事業承継「個人、IPO、M&A」

株式承継の方法は3つしかない。第1に「個人への承継」、第2に「株式市場への上場」、第3に「第三者である企業やファンドへの承継」である。どの方法にもメリットとデメリットがあるため、それぞれの説明していく。

第1の「個人への承継」では、後継者となる子供がいなければ難しい。そして、その子どもが継いでくれない可能性もある。親の苦労を見ていたこともあり、例えば東京で弁護士になった、会計士になった、上場企業の部長になったという場合、地元に帰って親の家業を継いでくれないという相談を多数受ける。さらには、「継がせない」という選択を経営者自身がすることもある。個人保証を背負わせてまで、本当にこの会社を自分の子どもに継がせていいのかということだ。