では、事業をよりよく理解している社員や役員への承継はどうかというと、上手くいかないことがほとんどである。

それには2つの理由がある。第1に、株式は税法上、評価の方法が決まっている。そのために、無料で譲ったり、安く譲ったりするということが、良い会社であればあるほどできず、多額の贈与税が発生することにもなる。また、株式を買い取れるほどの資金を、社員や役員が用意できるかが一番難しいところである。

第2の理由として、個人保証を引き継いでまで、社員や役員が承継してくれるかという難しさもある。株式を譲渡して経営の第一線から身を引いた社長に、個人保証だけを残しておくというわけにはいかない。しかし、個人保証を引き継いでまで、次の社長になりたい幹部がいるかどうかで、壁に当たってしまう。見てきた中でも、幹部社員による継承はほとんど、上手くいっていない。


「上場」後の株式分散は懸念事項

次に上場であるが、引退したいから上場するという選択肢は現実的ではない。M&Aキャピタルパートナーズも2013年に上場した。同じ年に上場した企業も58社あるが、上場企業の社長が売り出した株式はというと、2013年は3.8%である。要するに、社長が大半の株式を売り出すIPOは成り立たないわけだ。

一般投資家から見ても、上場企業の社長が大量の株式を売り出せば、「この社長はこの会社が伸びるとは思っていない」ということなる。そもそも主幹事がそれを許さない。

さらに、上場会社であれば、株式の時価というのは市場価格で明確にあって、株式を受け継いだ人、相続した人は市場で売却して納税資金を作らなければいけない。そうして、分散が進んでしまうということにつながるのである。


事業承継のM&A

そういう中で、事業承継型のM&Aが増えている。創業者の目線からも、株式のほぼ100%を譲渡できるので、どのスキームに比べても一番大きな創業者利潤が残る方法だ。もちろん、創業者の個人保証も解除されることになる。加えて、キャッシュをきちんと用意できる相手との「縁談」により、株式譲渡の対象となる会社も、雇用も、より大きな事業基盤、財務基盤の中で守られていく。こういった背景のなか、日本におけるM&Aは増えてきているのである。

つまり、M&Aでは、企業にとっては高い永続性、社員にとってはより大きな事業基盤の中での雇用の安定を図れる。一方、オーナーにとっては株式の現金化と、個人保証を解除できるといったメリットがある。最後に、買い手側にとってはまさに「時間を買う」ことで「早い成長」を達成でき、関係者全員がウィンウィンになるのがM&Aの真髄なのではないか。(ZUU online 編集部)

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