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口座を開けるのは金融資産10億円以上を有する資産家から。いわゆる普通の商業銀行とは全く異なる金融機関であるプライベート・バンク。この知られざる世界を紹介するために、PB業界のグローバル・リーダー、クレディ・スイスで事業を統括するプライベート・バンキング共同本部長大橋雅英氏にお話をお聞きした。

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インタビュアーは本誌にも寄稿頂いている日本最大の金融メディアZUU onlineを運営する株式会社ZUUの冨田和成氏。(文:加藤俊、この記事は Biglife21 に掲載される予定です)

揺らぐ守秘義務の在り方

冨田 :昨今の金融市場を取り巻く規制強化圧力が影響しているのでしょうか。そもそもスイスのプライベート・バンクは、預金者の個人情報を厳格に守ってきたからこそ、世界中の富裕層が資産運用先として絶大な信頼を寄せた面も多分にあったかと思うのですが、近年その守秘義務の在り方が揺らいでいますよね。富裕層の脱税に利用されているとの批判の高まりや、タックス・ヘイブンを問題視するアメリカやEU、OECD加盟国の圧力により、伝統に大きな風穴が空いてしまっている。

大橋 :時代の潮流として金融取引への規制強化圧力が高まってきているのは確かです。

ですから、クロスボーダーでのビジネスは引き続き大きなビジネスではあるのですが、それと同時に各国のオンショア型のプライベート・バンキングを戦略的に大きくしていこうという思いもあったのです。

冨田 :その国にいながらその国のお客様のために資産管理を行う方が戦略に適っていると。ただ、そのためにはその国に多くの富裕層がいなければなりません。そうした観点で日本というマーケットは魅力あるものに映ったということでしょうか。

日本は富裕層数世界2位

大橋 :日本は素晴らしい市場です。富の蓄積の層の厚さや富裕層の方の人数に於いて、いまでも世界2位を誇る国です。個人金融資産が約1700兆円。金融資産100万ドル以上を持つ富裕層の方の人数は推計270万人強です。マーケットの規模は圧倒的と言えます。

冨田 :では何故それほど大きなマーケットなのに、数々の外資系金融機関が入ってきては縮小や撤退を繰り返すのでしょうか。

大橋 :やはり障壁が大きいからでしょう。たとえグローバルで大きなプライベート・バンキングを展開していても、それをそのまま日本に持ち込んで事業展開できるといった簡単な話ではありません。まず言語が違います。それから金融商品への税務体系など日本独特の規制の問題も大きい。

冨田 :金融のルールも違いますよね。

大橋 :そうです。日本独自のインフラをゼロから作ることが求められるのです。そのシステム投資をして尚且つビジネスがサステナブルに回るためには、やはり一定の規模が取れないと厳しい。どこもその規模に至る前に縮小や撤退を選択せざるを得なくなってしまうということだと思います。

冨田 :最近の動きで言うと、シティバンクさんやHSBCさんもリテールを閉めて、プライベート・バンキングは売却してと。

大橋 :ただ、クレディ・スイスの場合は事情が異なります。私どもはこのプライベート・バンキングが中核事業なのです。それともう一つ。結果的に2009年というリーマン・ショックの後にローンチしたことが、かえって良かったとも言えるのです。これが2007年頃にローンチしてお客様の資産を預かり始めたところで金融危機を迎えたのだとしたら、もう少し大変だったかもしれません。