3年で預かり資産倍増

冨田 :そういう意味でいうと、日本進出は絶妙のタイミングだったのかもしれませんね。他の金融機関がアプローチして提案した商品が右肩下がりになる中、結果的にお客様の眼前に救世主のように表れたという。

大橋 :それでも皆様リスクに対しては敏感になっていましたので、投資マインドはかなり下がっていました。決して楽なスタートではありませんでした。

冨田 :風向きが変わったのはいつ頃なのでしょうか。

大橋 :2012年の HSBCとの事業統合です。ここでスタッフの数・お客様の数・預かり資産がほぼ倍になりました。それによって、投資コストを吸収して持続可能なビジネスとなるクリティカルマスを取ることができたのです。そこから拍車がかかって、この3年で預かり資産はさらに倍増しています。

冨田 :3年で倍増しているということは、それだけの数のお客様がクレディ・スイスさんを信頼しお金を預けているということですよね。しかもタンス預金ということはないでしょうから、他の金融機関から移しているという。

大橋 :これは日本だけでなくクレディ・スイス全体の話ですけれども、毎年どれだけ預かり資産が増えたかの統計があるのですが、主要銀行の中でリーマン・ショックのあった2008年も含めその後預かり資産が純増し続けている数少ない金融機関です。多くの金融機関さんがあの時に苦境に陥りました。預金流出を経験し公的資金が注入され、その後何とか挽回しているという金融機関さんもある中で、クレディ・スイスは毎年預かり資産が純増できている。これは裏返せば、多くのお客様に支持を頂けている証左ですから、本当に有難いことだと思っています。

冨田 :それはリスク商品の単価が下がったとしても、それを相殺する新しいお金が入ってきているということですよね。要はリスクの時にもお金が集まっている。

大橋 :というよりも逆に有事のときほどお金が集まってきているのです。

冨田 :それは凄い。何故だとお考えですか。

有事の時ほどお金が集まる

大橋 :やはり底流にある考えに、お客様に何かをご提案するときにポートフォリオという考え方がきちんとあるからだと思います。そこをご評価頂けているのだと。先程も言いましたが、私どもは商品の単品をお売りしているのではありません。お客様の資産全体に対するアドバイスを行っているのです。そこが私どもの商品なのだという意識を一人ひとりが強く持っています。

冨田 :具体的にどういったアドバイスを行うのでしょうか?

大橋 :クレディ・スイスでは、リサーチ部門がマクロ経済や金融環境に係る精緻なシナリオ分析を行っています。地球規模で経済情勢が大きく変動する現代ですから、人口動態や世界の多極化、持続可能性といったメガトレンド(世界的潮流)に対して、将来起こり得る様々なストレス事象を考慮した独自の分析で世界のマーケットを見ています。その情報に基づいて投資委員会で1年の見通しを立て、月に2回レビューしながら、戦略的にアセットアロケーション(資産配分)を変更しています。そうした情報をもとに一人ひとりのお客様のリスク許容度に応じたポートフォリオを作るのです。実際にお客様とディスカッションをさせて頂く際も、ある商品が流行っているからということではなくその商品がお客様の全体の資産の中でどういった意味を持つのかという観点でアドバイスを行います。

冨田 :私自身プライベート・バンカーとして仕事をしていた中で一番大変だったのは、マーケットが崩れるとき、お客様が損失を抱えるときです。そこで信頼関係をぐっと引き寄せられるかどうかは、日頃から中長期的視点でお客様の資産のことを考えられているかどうかに尽きると思っています。これを多くのバンカーができている、そこにクレディ・スイスさんの凄みがありますね。

スペシャリストにも教育

大橋 :有難うございます。私どもはそのための研修を徹底して行うのです。お客様のニーズを聞くことに始まり、マーケットの状況やリスクをどれだけ取れるのか、保守的な運用を望まれるのか、積極的にリスクを取ることを望まれるのか、投資の目的の確認、最終的にどういったポートフォリオにするのか、そしてその後のモニタリング。新入社員はこのアドバイザリー・プロセスというクレディ・スイスのDNAをロールプレイ研修等を通じて身につけていきます。

冨田 :クレディ・スイスさんの新入社員って本当の新卒の方ではなく、皆さん他の金融機関で富裕層の資産コンサルティングを行っていた、いわゆるその道のスペシャリストの方たちですよね。そういった方を対象に徹底した教育をし直すのですか。

大橋 :はい、ひとえに長年にわたり培われてきたクレディ・スイスのDNAを身につけてもらうためです。ロールプレイのみならず学科試験も行います。それら全ての認証プロセスを経ないとプライベート・バンカーとしての仕事には従事できません。試験ではマクロエコノミーから、為替、ファンドといった金融市場の知識、ポートフォリオアプローチなど9科目をマスターすることが求められます。

冨田 :コンプラ研修はどこもやることだと思うのですが、スペシャリストの方に徹底して教育をし直す。クレディ・スイスさんがずっと培ってきた考え方を全バンカーに浸透させるということなのですね。(次回7月27日公開予定)

大橋雅英(おおはし・まさひで)…クレディ・スイス銀行東京支店、クレディ・スイス証券株式会社マネージング・ディレクター兼プライベート・バンキング共同本部長。1960年愛知県生まれ。神戸大学卒業後日系・外資系金融機関でリテール・法人営業および20年以上のプライベート・バンキング業務経験を経て、現在に至る。

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