インバウンド専門部署の創設と長期専任の人材を確保すべき

◆さらに推進していくための方策はありますか。

これからインバウンドを推進していくために、もう1つ重要なことは、企業の中に専門の部署を置くことです。これがない企業が多いのです。インバウンドという新規事業と、これまでの既存事業を分ける必要があります。

7年前、インバウンドのプロジェクトの責任者になってまず感じたのは「何て素晴らしい新規事業だろう!」ということでした。インバウンドは最強の新規事業であり、これほど投資効果の高いものはないと考えます。新規事業を立ち上げるときに必要な「ヒト・モノ・カネ・情報」について、既存の店舗を全て利用することができます。ですから、リスクが最小化されています。

その一方で、新規事業であって、既存事業ではないことがポイントです。訪日ブームの中で、多くの企業は、インバウンドを既存事業の延長でしか捉えていません。ですから、インバウンドに関しては、「来たら何かやろう」という考え方です。しかし、インバウンドは新規事業ですから、投資が必要です。投資が無い限り、リターンもありません。

また、海外とのつながりが必要ですから、人への投資は重要です。日本では担当者が、行政も民間もよく変わりますが、アジアの人たちは7年前に最初に取り組んだ人たちが、今も全く変わっていません。日本側は、その大半が変わってしまっています。そのおかげでドン・キホーテが今のアドバンテージを有しているのです。

私はインバウンドを新規事業として捉えましたので、必要だと思うことに大胆に先行投資をしてきました。例えば、「ようこそ!カード」によるインバウンドの集計システムの構築、全店での多言語放送システムや「音声ペン」の導入、多言語のホームページの作成などに取り組んできました。

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異業種協働で定期発行する“SHINJUKU EXPLORER"。英語、中国語(繁体文・簡体 文)、韓国語、タイ語の5種類を用意。

◆ただ、通常に比べると、投資額としては少ないですよね。

圧倒的に少ない投資で済みますし、圧倒的に大きなリターンがあります。しかし、専門の部署がないと、例えば、国内のイベントがあったりしますと、インバウンドはおろそかになってしまいます。

けれども、新規事業を、やったり、やらなかったりということでは、芽が出るはずがありません。ですから専門部署が必要なのです。部署がなくても、専任を置けばいい。専任が無理なら、兼任でもいい。けれども、明確に「君はインバウンドの担当だよ」と。

◆そうすると、責任の所在も明確になりますね。

そうです。また、専任がいなくて、担当がコロコロ変わるようでは、海外の担当者が誰と話していいか分かりません。すると、積み上がっていかないのです。国内市場の穴埋めではなくプラスαで戦略的に儲ける

◆担当が変わると、またイチから始めるという感じになりますね。

そうです。既存事業の場合は、システムや組織ができていますから、それでも回ります。しかし、インバウンドは新規事業ですから、新規の組織、専任スタッフを置いて、不退転の気持ちで取り組まない限り、大きな成功はありません。

もう1つ申し上げると、インバウンドに過度に依存するのは危険です。今はたまたま円安基調ですが、過去の循環をみてみれば、また円高の時代が来るでしょう。また、いろいろな国際的なリスク、例えば、国際的な事件や大きな景気変動等もあります。

国際観光市場は非常に脆弱なマーケットです。だからこそ新規事業として別部門をつくるべきなのです。国内市場をおろそかにして、インバウンドで穴埋めをするという考え方では、不安定な、脆弱な企業体質になりかねません。

◆もちろん国内市場にも力を入れていくけれども、プラスαとして、新規事業としてインバウンドがあると。そこでさらに売上を伸ばしていくことで、全体としての売上が上がるということですね。

そうです。世界のいろいろな変動に一喜一憂するのは、既存業態の延長で考えているからです。アジアでは、今後数十年にわたって国際観光市場が伸びていくといわれています。ですから、未来戦略として中長期のビジョンを持ち、インバウンドという新規事業に取り組むことが大切なのです。(記事提供: 投資家ネット『ジャパニーズ インベスター 』)

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