ここで注目される、約4割の高齢者世帯が収支をプラスさせている可能性があるということをどのように解釈すべきだろうか。表出されたこれらの結果の背景にある「貯蓄」や「世帯(人員)」や「就業」の状況まで捕捉できていないため一概に述べることは本来避けるべきではあるが、少なくとも「高齢者は使えるお金がないから"使えない"」という見方は一面を見ているに過ぎないことは言えるであろう。

また一方で、「高齢者世帯の4割はお金が余って余裕がある」という見方も適切ではないだろう。可処分所得が300万円未満の世帯が56.3%を占めるなかで、「余裕がある」という表現は違和感を与えるに違いない。

より実態に近い解釈を考えると、「手元には使えるお金はあるけど"使わない"世帯が約4割もある」ということではないだろうか。"余分なものは買わない"ことに徹しながら生活を切り詰め、結果として収支のプラスを確保しているのが実態と考える。

では、なぜ使わないのか。その理由は、貯金の目的を聞いた調査結果(図表2)からも明らかなように、「将来に向けた備え(病気や介護が必要になった時など、万一の場合の備えのため)」が最も大きな理由と考えられる。ただもう一つの理由として、貯蓄するよりも積極的に消費したいと思えるほどの商品サービスが市場にない、ということもあるのではないだろうか。

貯金の目的に該当することではないが、「使わない」理由としてはその要因になっていると考える。この点、やみくもに高齢者の消費を促すようなことは避けるべきではあるが、高齢者の市場を活性化させるには、「使わない」を「使える」「使いたい」に変えるような市場からのアプローチが必要である。

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ではそのために民間企業として何ができるだろうか。本稿では僅かな指摘に止まるが、前述の「使わない」理由のうち前者の将来不安ということの軽減に向けては、保険や信託といった金融商品に期待したい。

ライフサイクル仮説(*5)に従うように、安心して貯金をしっかり"使い切れる"ことをサポートするような、そうした画期的な商品が開発できないかと考える。また後者については、あらゆる商品サービスについて、「これなら買ってもいい、利用してもいい」と思わせる魅力づくり、付加価値づくりが求められる。