村上春樹『職業としての小説家』
(写真=スイッチ・パブリッシングより)

今月10日発売予定の村上春樹の新刊『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング)の初刷10万部のうち、実に9万部を紀伊國屋書店(紀伊國屋)が買い切るというニュースは大きな話題となった。買い切るといってもすべて同書店で販売するのではなく、全国の書店と協力して売るという。これはインターネット書店、つまり「アマゾン」対策の「買切・直仕入モデル」と見ていい。


雑誌の販売額はピークの約半分 書店数も半減

街から書店が消えていることを実感している人は多いだろう。事実、全国の書店数は1999年に約2万2,300店あったものが、今年5月時点で約1万3,000 店と、16年で42%近く減少している。

出版統計によると、昨年の書籍販売額は前年比4%減の7,544億円。雑誌は同5%減の8,520億円だ。書籍は1996年のピークと比較すると約31%の減少、雑誌のピークは翌97年だが、当時と比較すると、なんと45.5%減少。ほぼ半分のレベルまで減少しているのだ。


出版統計に入らない本・雑誌の売り上げ

リアルな書店が減れば当然本の売り上げも少なくなるが、ここには数字のマジックがある。というのも、出版統計は、“国内において流通するすべての本・雑誌の売り上げを集計しているわけではない”のである。

なぜなら、出版統計のベースは大手取次会社である「トーハン」のデータ。そこから業界の数値を推計した数字が、公表されているにすぎないのである。つまり取次会社を経由しない販売の分は、出版統計には含まれていない。出版社とアマゾンの直取引や出版社による直販も当然含まれていないである。

書店にとってアマゾンは脅威そのものだ。日本の出版社の9割がアマゾンと直取引を行っているというデータもあるし、アマゾンは売り上げを公表していないので規模は分からないが、ともかく莫大な売り上げであることは間違いない。

そんな中、村上春樹の新作の9割を紀伊國屋が買い切ったのである。しかも同書店だけで販売するのではなく他書店などと協力するという。「巨人・アマゾンに対抗しようとするあまり、紀伊國屋のとんでもない策を講じた、血迷ったのか」と思う方もいるかもしれないが、それは間違いだ。


アマゾン対策になるのか? 紀伊國屋が出版流通市場に投じる一石

紀伊國屋は半年ほど前に、大日本印刷と共同出資して「出版流通イノベーションジャパン」を設立している。大日本印刷は傘下に、丸善、ジュンク堂、文教堂といった書店チェーンを有している。

両社はコメントとして、「リアル書店とネット書店の“ハイブリッド戦略”を執る両社が互いのノウハウを共有し、日本の出版流通市場が抱える課題について調査・分析および施策の検討を行っていきます」としている。

ここには、アマゾンの独走を許している「日本の出版流通市場が抱える課題」を、毎年ノーベル文学賞の受賞が取りざたされる世界的作家・村上春樹の新作の9割を買い切ることで、一石を投じようという狙いがあるのではないだろうか。取次を通さない「買切・直仕入モデル」のトライアルでもあるだろう。

人気作家の新作買い占めは一時的な話題をさらうだろうが、長期的に見て、取次会社に対してはともかく、本当にアマゾンへの脅威となるのだろうか。(ZUU online 編集部)

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