イギリスのDAとは
さて、もう一つの大きな動きがDAの導入です。2015年3月に成立したPension SchemeAct2015では、年金にDefinedbenefitscheme、Sharedriskscheme、そしてDefinedcontributionschemeという三つの制度が定義されました。このうちのSharedriskschemeが法案の段階までDAと呼ばれていたものにあたります。
それぞれの制度説明は図表2の通りですが、規約に基づく給付を終身に渡り提供するものをDefinedbenefitとし、これを受けてSharedriskschemeは「Definedbenefitには該当しないが、何らかの年金給付を約束するもの」となっています。
こうして生まれたSharedriskschemeの定義ですが、これに基づいた具体的な制度はまだ存在していません。ただ、これまで複数の案(図表3)が議論されており、そのかなりの部分が実現する見通しです。その検討過程で出てきたコメント、更にはPension Scheme Act 2015に盛り込まれたCollectivebenefitの内容をみると、オランダを始めとする海外の取組みをつぶさに研究したことが窺えます。
このCollectivebenefitとは「制度が提供する給付の一部(あるいは全て)が合同運用の結果に基づくもので、その給付原資の配分方法が明確なもの」と定義されています。従来の年金法や税法で想定されていない仕組み(Sharedrisksheme)を導入するにあたって、新たにこの概念が必要だということで用意されたものです。この定義によって職域年金はもとより、その他の私的年金でも新しい商品の開発が進むことを政府は期待しているようです。
前回のレポートでCDCとDAがオランダで生まれた経緯を紹介しました。2005年に行われた会計制度の変更による影響を避けたい企業が中心になって、その企業別年金にCDCを導入したという内容でした。ただ、そのCDCは必ずしも主流にはなりませんでした。しかし、その後に訪れたリーマンショック等の金融危機を経て、従来からのDBの仕組みを変えなければ年金基金が危ないという議論が再び盛り上がり、その中でDAという考え方が出てきました。
こうしたオランダの流れに対して、イギリスにおけるDAへの道筋は異なります。図表4はイギリスの民間企業におけるDBとDCの加入者(現役世代)数の推移を示しています(i)。DB加入者数が時間の経過とともに減少し、その一方で、受け皿になるはずのDCへの加入者もほぼ横ばいの状態が続いています(ii)。
また、図表5は2013年におけるDBとDC掛け金の負担率ですが、DBに比べてDCの率が60%程度となっています。イギリス政府が、このままではイギリス国民の老後に対する備えが不十分になる、という危機感を抱いたのも肯けます。そして政府の辿りついた結論がDA(Sharedriskscheme)、即ち企業と従業員が年金制度の持つリスク(運用リスク、長寿リスクなど)を分かちあうことで職域年金制度の復活を図るという考えだった訳です。
以上のような経緯の違いから、オランダのDAがDBの延長線上にあるのに対して、イギリスのDAはDCの延長線上にあるのではないかと考えることができます(iii)。