まずは1万円ずつ10個の投信からでOK

だが、頭ではそう理解できても、インフレ資産を買う第一歩を踏み出せない人は多い。それは、「もし失敗して、お金が減ったらどうしよう……」と考えるからだろう。

「そんな人に私が提案したいのは、まずは1万円ずつ10個の投資信託を買ってみること。種類はいろいろありますが、とりあえず、自分で考えて10個を選んでください。10万円なら、飲みに行く回数を減らせば、サラリーマンにでも出せる金額でしょう。それに、1万円の投資信託を10個では、失敗したとしても、逆にうまくいったとしても、大した金額にはなりません。そんな損益よりも、非常に大きなものが得られます。

大事なのは、月に1回でもいいから、買ったあとの値動きを見ること。自分の頭で考えて10個を選んだときには、なんらかの仮説を立てたはずです。その仮説どおりになったか、ならなかったかを検証するのです。そうすることで、世界の経済や政治を見る目が養われます。

経済や政治だけではありません。最近、欧州の農薬メーカーの株価が軒並み下がっています。これは欧州が冷夏だから。涼しくて害虫が発生しないので、農薬が売れないのです。欧州株で運用する投資信託を買っていれば、送られてくる運用レポートにそんなことも書いてあります。日本にいて『今年も暑いなあ』と思っているだけでは絶対に見えない世界が見えるのです。

ですから、まずは勉強だと思って10万円を使ってみてほしい。すると、若手社員でも、1年後には自分の会社の上司や役員よりもはるかに世界のことに詳しくなっているかもしれません。その結果、仕事の成果が上がれば、収入も増える。最初から投資で稼ごうと考えるより、まずは自分を磨くことから入ったほうが、お金との付き合いはうまくいくはずです」


株の銘柄選びは「子供の就職先」選び

投資信託の値動きを1年も見ていれば、「投資って意外と面白いな」と感じるようになるかもしれない。そして次に個別株に興味を持ったら、銘柄選びが問題になる。

「どの銘柄を買うか決めるときは、『自分に子供が10人いたら、どこに就職させるか?』と考えると良いでしょう。すると、『IT業界は成長産業だけれど、さすがに全員を就職させるのはどうかな?1人くらいは安定した業界に入れたい』といったことを自然と考えるのではないでしょうか。その後も会社の動向をチェックして、『この会社は最近評判が悪いから、転職させようか』といった判断もできます」

そうは言っても、本当に初心者が自分で判断して銘柄を選んで良いのだろうか。やはり、経済の専門知識を学んでからのほうが良いのではないか。

「誤解している人が多いのですが、経済に詳しくなったところで投資がうまくなるわけではありません。たとえば、バブル崩壊で、日経平均が4万円弱から1万円以下にまで下がりました。でも、株価が4分の1になったからといって、日本のGDPが4分の1になったわけではありませんよね。つまり、経済の動きと値動きとは別物なのです。

私自身、経済を勉強したことは一度もありません。その代わり、新卒で証券会社に入ったときに、『スプレッド・シート』を書くことを日課にしていました。複雑なものではなく、大学ノートに『日経平均』『NYダウ』『ドル/円』などの指標を書き込み、それぞれの終値と前日比の数字を毎日記入するだけです。これを繰り返すと、いつもと違う数字の動きがあったときに、その理由を考える習慣が身につきます。

こうして勉強してきた人なら、2年前に日銀の黒田東彦総裁が『マネタリーベースを2倍にする』と発言したときに、株価の上昇を予想できたはず。すぐに預金を日本株に移し、今頃は資産を倍にしているでしょう」