次に時系列の特徴を見てみたい。一般的に「会計発生高はゼロを中心に平均回帰する」と指摘されることが多い。会計発生高が大きい場合は、会計期末において現金回収よりも利益計上の方が早い取引があることを示しており、次の期に現金が問題なく回収できていれば(*6)、翌年の会計発生高の数値は小さくなるはずだからである。

よって、投資活動によるキャッシュフローを含めた財務指標であるAccruals Ratioにおいても同様に、多額の設備投資や企業買収等が継続的に行われない限り、大きな数値が計算された翌年にはあまり大きな数値にはならないものと考えられる。

また、設備投資や企業買収等が行われる場合には、翌年以降の収益性の向上や、減価償却費やのれん償却/減損(*7)等による費用認識の影響を受けて、最終的にAccruals Ratioは元の水準に回帰することも想定される。

図表8と図表9は倒産企業と非倒産企業のAccruals Ratio(前年比)の時系列推移を示したものである。この2つのグラフから倒産企業と非倒産企業ではAccruals Ratioの時系列推移の特性が異なることが分かる。非倒産企業のAccruals Ratioは、平均値があまり変化しておらず、標準偏差も小さいことから平均値の近辺を平均回帰している企業が多いものと解釈できる。

一方で、倒産企業のAccruals Ratioは2005年以前とそれ以降で様相が異なっている。2005年以前の倒産企業におけるAccruals Ratioの平均値は単調減少しており、特に倒産する2~3年前からAccruals Ratioが一貫して負の数を取り続ける特性があったことが分かる。これは、2005年までの倒産企業は、業績悪化を伴いながら、総資産が倒産するまで単調減少することが多く、資産売却や減損等によるリストラクチャリングが伴うことが多かったためではないかと推測される。

逆に、2006年以降の倒産企業では、倒産する2年前までAccruals Ratioが正の数を継続的に取り続け(しかもB/SBasedでは単調増加の傾向も見られる)、最終的に負の数になる傾向があることが分かる。

この点については、おそらく、倒産する直前まで利益項目を大きくするような利益調整等で財務数値を良く見せることに成功していたが、資産化して後ろ倒しにしていた費用等を後々認識しなければならなくなって、最終的に利益調整を行ったとしても利益目標が到達できない状況下となり、大きくAccrualRatioを毀損することになった企業が相対的に増加した状況が想定されるのではないかと思われる(*8)。

信用リスク分析 図8

信用リスク分析 図9

これらの結果から、2006年以降の倒産企業において、米国企業に対してBeneishが指摘したのと同様に日本においても利益を大きく見せる利益調整と「粉飾」(に起因した企業倒産)がある程度相関している可能性が考えられる。

また、「粉飾」とまでは言えないまでも「過度な利益調整」が最終的に企業の信用力を悪化させる方向に作用している可能性があることを示唆するものであろう。この点については次章以降で信用リスク管理モデルの観点から、定量的にさらなる分析を行ってみたい。

これまでのクロスセクションと時系列の考察から、倒産企業と非倒産企業のAccruals Ratioの性質は以下のようにまとめられる。
・Accruals Ratioの絶対値が大きい場合、倒産確率が上昇する
・Accruals Ratioが負の数または正の数を継続的に取り続けると、倒産確率が上昇する