(写真=PIXTA)
はじめに~「粉飾」に起因した企業倒産の予見は可能か?
帝国データバンクの『2014年度コンプライアンス違反企業の倒産動向調査』によれば、日本においてコンプライアンス違反(*1)に起因した企業倒産が増加傾向にある。特に「粉飾」(*2)に該当する倒産件数が増加しており、2014年度は2005年度以降の調査で最多の88件(2008年度と比較して2倍)でコンプライアンス型倒産全体の約40%を占めている。
一般的に外部から企業のコンプライアンス違反を事前に把握することは難しく、一度問題が発覚すると昨今の情報社会の発達から急速なスピードで情報が拡散していくことで、短期間に株価や債券価格の急落をもたらし、最悪の場合は倒産してしまうこともありえる。よって、債権者や投資家にとってコンプライアンス型倒産を意識した信用リスク分析は重要な課題の一つではないかと思われる。
信用リスクの分野では、株価、CDSや債券価格といった市場価格を分析することで信用リスクを把握しようとする方法と、財務分析を行うことで信用リスクを把握しようとする方法と、大きく2つに分類される。
特に、後者の典型的な分析手法を用いた場合、財務分析に使用する数値が企業によって「良く」見えるように調整されている状況では企業の信用力の悪化を事前に把握するのは難しい。本レポートは、この後者の典型的な財務分析手法における問題点を補完するような、特に「粉飾」に起因した信用力の悪化をできる限り事前に把握できないか模索することを目的としている。
「粉飾」に関する米国の先行研究では、利益が増加する方向に利益調整を行う企業は不正会計を起こす可能性が高いことが指摘されている。この観点から、利益調整の兆候を分析することで不正会計の検出を目指すようなモデルが提唱されている。
本レポートでは、この「利益調整」に着目して、Accruals Ratio(純営業資産の変化率)を用いた分析を行うことで、業績悪化による企業倒産だけではなく、「粉飾」に起因した企業倒産も含めて信用力悪化の兆候を検出できる可能性があることについて紹介する。
2000年度以降に倒産した東証一部・二部の上場企業に関して、倒産する直前の過去5年間の会計年度にわたってAccruals Ratioを分析すると、比較的信用力の高い非倒産企業とは統計的に異なる特徴があることが分かった。また、特に2006年以降において、「粉飾」起因に限らず、「過度な利益調整」に耐えきれずに企業倒産したと解釈できるケースが増えていることについても言及する。
最後に、利益調整に関する財務指標に着目した定量的な信用リスク分析手法について提案し、Accruals Ratioを用いた分析の有効性についてリスク管理モデルの観点から検証を試みる。また、AltmanのZScoreモデルのような通常の財務分析手法では信用力が悪化していることを捕捉するのが難しい企業に対して、本レポートの手法を使用することでその異常な兆候を検知できる可能性があることについても紹介する。