◆日本の倒産企業と非倒産企業のAccruals Ratioに見られる差異

上記のAccruals Ratioの定義式に基づいて、日本企業に適用した結果について報告する。日本の倒産企業と非倒産企業について、以下の基準で財務データの収集を行った。

(1)倒産企業(73社)
・「全国企業倒産集計2015年8月報(帝国データバンク)」に掲載されている「2000年以降の上場企業倒産①②」において、東証一部・二部に上場していたもの(金融機関を除く)(*5)。
・Bloombergにおいて、倒産までの直近6年間について財務データの取得が可能なもの(ただし、連結データと単体データがあるものについては連結データを優先する)。

(2)非倒産企業(106社)
・2015年8月末基準で、A格以上の発行体格付けが付与されているもの。ただし、S&P、Moody's、Fitch、R&I、JCRの順に発行体格付けを選択する(金融機関を除く)。
・Bloombergにて発行体格付けのデータが取得可能なもので、かつ直近6年間について財務データの取得が可能なもの(ただし、連結データと単体データがあるものについては連結データを優先する)。

上記のサンプルにおいて、直近5年間についてAccruals Ratio(前年比)の平均、標準偏差、最大、最小、範囲を計算した結果が図表2~図表5である。倒産企業と非倒産企業との間で標準偏差の水準が大きく異なっているのが特徴的である。倒産企業のAccrual Ratioの標準偏差は各年度において30%~60%の数値を取るが、非倒産企業のAccruals Ratioの標準偏差は6%~11%の間にある。

つまり、倒産企業において利益調整、つまり不正会計の兆候が疑われる財務項目の変化が非倒産企業のそれに比べて非常に大きいことを示している。一般に、財務諸表の数値が大きく変化する場合は、当該企業のビジネスリスクが大きいことが想定されるので、直感的にもこの結果は妥当であろう。

信用リスク分析 図2-5

また、直近5年間のAccruals Ratio(前年比)に関する度数分布(図表6、図表7)を見ると、Accruals Ratioのとりうるデータ区間の範囲に大きな違いが見られる。非倒産企業はマイナスのAccruals Ratioになることはほとんどなく、また30%を超えることもほとんどない。

一方で、倒産企業はAccruals Ratioが負の数になることも30%以上になることも恒常的に生じている。つまり、この結果から、Accruals Ratioが極端に大きな数字を取るか、または極端に小さな数字を取るかは倒産企業の特徴と非倒産企業の特性を区別する重要なポイントになりうることが示唆される。

信用リスク分析 図6-7