期待を好転させ続けるために必要な「機動的な追加緩和」
日銀の量的・質的金融緩和は、財政拡大に力を借りて名目GDPをリフレイトするとともに、長期金利を抑制し、名目GDP(膨張の力)と長期金利(抑制の力)のスプレッドを持続的にプラス(膨張の力が抑制の力を上回る)にすることで、経済とマーケットを刺激し続け、デフレ完全脱却を目指すものである。
確かに、名目GDPと長期金利のスプレッドを持続的にプラスにするには、日銀の金融緩和の量は既に十分出ている。日本の内需低迷・デフレは、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)に対して、マイナス(赤字)である財政バランスが相殺している程度(成長を強く追及せず、安定だけを目指す政策)であり、企業貯蓄率と財政バランスの和(ネットの国内資金需要、トータルレバレッジ)がゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力が喪失していたことが原因である。このネットの国内資金需要が復活し、資金が循環・拡大を始めたことが、今回の景気回復がデフレ完全脱却につながる可能性がある理由である。
言い換えれば、この復活をしたネットの国内資金需要を金融緩和によりマネタイズする量が出ていれば、名目GDPと長期金利のスプレッドを持続的にプラスにすることは可能で、その額はGDP対比4%程度で20兆円程度にしかすぎない。量的・質的金融緩和の開始時のマネタリーベースの年間増加量の目標の70兆円は、これを大きく上回り、やりすぎであったことは否定できない。しかし、デフレ完全脱却への期待を好転させたまま維持するためには、初期の量は所与として(初期の量には関係なく)、景気・マーケットの状況に応じて、追加的な金融緩和が必要になると考えられる。
景気・マーケットが少しでも悪化すれば、日銀が機動的に金融緩和によって支えるという安心感が、実体経済より先行する期待、そしてそれを含む株価上昇を持続的にする。株価の上昇が強くなれば、マーケットの期待ROEが上がっていく。
しかし、これまでのデレバレッジや貯蓄という企業行動はROEを下げてしまうので、実際のROEは低水準にとどまっている。企業経営者が行動を変えなければ株価が下落してしまうので、企業経営者は実際のROEを期待ROEに近づける経営に徐々に転じ始めると考えられる。
そして、内需低迷とデフレの長期化の原因となっていた企業のデレバレッジ(総需要を破壊する過剰貯蓄)は止まり、貯蓄をより前向きな企業活動(設備投資や雇用・賃金、研究開発など)に使うことが、実体経済とマーケットの回復が強くなる好循環に結びついていく。この好循環が、構造改革の成功、イノベーション、生産性の向上、財政再建、そして社会の安定をより確かなものにしていくと考えられる。
安倍首相は、アベノミクスの成功のバロメーターとして、そして内閣支持率のよりどころとして、株価を重視していると言われるが、企業のデレバレッジが恒常化したことによる長期的な内需低迷とデフレからの脱却にとっては正しいアプローチであると言える。