米労働省が6日に発表した10月の雇用統計では非農業部門の雇用者数が前月に比べ27.1万人増加し、市場予測の18.2万人増を大幅に上回った。失業率も5.0%と前月より0.1ポイント改善し、リーマンショック前の08年4月以来の低水準となった。

米雇用統計は翌月初めに発表されることから、主要経済指標のなかで最も速報性に優れ、市場関係者は常に注目しているが、今年10月、11月分の数字は格別の意味を持っている。それは米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が12月15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合で政策金利を引き上げるかどうかの重要な判断材料になるからだ。


年内利上げ時期の可能性が高まる

10月の雇用が強かったことでFRBが12月に利上げする可能性は一段と高まった。外国為替市場では日米金利差の拡大を織り込んで円相場が前日比1円以上急落、2ヶ月ぶりの円安・ドル高水準となった。実際に引き上げられれば2008年12月から史上最低水準が続いた米国の政策金利は9年ぶりの上昇となる。

今年は年初から市場がイエレン議長を始めとするFRBメンバーの発言に振り回されてきた。8月には失業率が5.1%となり、FOMCが利上げの判断基準とする5.0%~5.2%に達したため、9月会合における利上げ観測が高まった。

夏場の世界同時株安に加え、他のマクロ指標に弱さが見え始めたためFRBは利上げを見送った。会合後の声明では「最近の世界経済や金融の動向が経済活動をいくらか抑制する恐れ」があるとし、新たに中国など新興国経済の減速を懸念する姿勢を示したため、市場の利上げ観測は急速に後退、年内はないとの見方も出始めた。

しかし、10月末のFOMC会合では一転して、金融市場の混乱や海外経済の不透明性を以前ほど懸念していないことを示唆、「次回(12月)会合」と具体的な時期まで挙げて利上げの方向性に変化がないことを強調した。このため、利上げ観測は再び強まり、雇用統計発表前には市場関係者の約6割が12月の利上げを予想していた。今回の発表を受けて、この割合はさらに高まることになるだろう。


利上げへの逆風となりうる要素はまだある

しかし、利上げが来年にずれ込む可能性もまだ残っている。今回の雇用統計はFRBの判断材料のひとつに過ぎないからだ。実際、イエレン氏は今月4日の米下院金融サービス委員会での証言で、12月の利上げが十分ありうると言明する一方、「まだ何も決めていない」と、今後の経済指標次第とする姿勢を強調している。

利上げへの逆風となりうるのはドル高や原油安、新興国の景気減速だ。

とくに多国籍企業ではこれらの影響が大きく、建設・鉱業機械大手の米キャタピラー社は新興国の需要不振を理由に9月末に業績を大きく下方修正、従業員1万人の削減を発表した。エネルギー関連業界でも設備投資や人員の削減が続いている。12月上旬までに発表される個人消費、雇用、輸出、設備投資の指標次第では利上げしにくい環境になる可能性もある。市場に利上げ否定論が残るのはこのためだ。