おわりに

上記のような取組みの結果、3社では、アジア地域の収入・利益の、企業(グループ)全体の業績に対する貢献度・重要度が増している。

例えば、プルデンシャルは、2014年度において新規保険料(年払換算ベース)の48%、営業利益(IFRSベース)の36%をアジア地域から挙げている。さらに2006年からはアジアから親会社(在英国)への現金配当を開始し、その規模は2014年で4億ポンド(約760億円)に増加している。

マニュライフも、2014年度において収入保険料の50%、中核利益2の33%が、アジアからのものとなっている。

AIAはアジア太平洋地域のみで営業を行っているため、アジア地域が同社の収入・利益面のほとんど全てを占めている(*3)。

このような収入・利益の両面でのアジアのウェートの拡大は、アジア拠点の貢献度と期待・重要度の大きさを明確に認識させることになり、アジア地域への経営資源のさらなる積極投入やアジア地域本部・拠点への権限委譲の拡大につながっているものと考えられる。

本稿では、代表的な外資3社を挙げて、その重要点と考えられる諸点について述べた。冒頭に述べたように、いずれもアジア地域において長い事業の歴史を有するが、それは、事業の歴史の浅い後発の企業にとってチャンスがないということを必ずしも意味しない。

この点で、プルデンシャルが、アジア事業を本格化したのは、1994年にアジア地域統括拠点を設立して以来のことであるという事例が参考になろう。さらに、アジア各市場の成長と変化の中で、後発の進出企業が成功する余地は十分にあると考えられる。

そのために、重要と考えられるポイントは、①企業としてのアジア事業戦略の明確化、②「グローバル標準化」と「現地適応化」の観点から、自社の強み(商品、販売、経営管理の仕組み・ノウハウなど)を活かすこと、③多様な能力・知識と着想・経験を有する人材(本国人材、第三国籍人材、進出国人材)の育成・活用、④成功・失敗を次のステップや別の拠点での展開に活かせる組織学習能力である。

加えて、企業やそのリーダーによる粘り強さは、様々な局面・課題を乗り越えて長期的な視点で海外市場において成功を収める上での最重要事項といえよう。

<主要参考文献>
AIA Group Limited (AIA) (2010), Prospectus for IPO, 18 November, 2010.
AIA Group Limited (AIA) (2015), Annual Report 2014.
Prudential Corporation Asia (PCA) (2006), The Pru Story in Indonesia.
Prudential Plc (Prudential) (2010), Prospectus for Right Issue, 17 May, 2010.
Prudential Plc (Prudential) (2015), 2014 Annual Report.
Manulife Financial Corporation (MFC) (2015), Annual Report 2014.
平賀富一(2013)「生命保険企業の国際事業展開に関する研究」『横浜国際社会科学研究』第17巻第6号。
同上(2015)「【アジア・新興国】アジア生命保険市場の動向・変化と今後の展望」『基礎研レター』
ニッセイ基礎研究所、2015年7月21日。

(*1)Prudentialを社名とする有力保険企業グループは、英国、米国にあるが、本稿では英国に本拠を置く企業グループを念頭に置いて述べている。
(*2)株価・為替等の変動要素を除いたベースの利益指標。
(*3)他方、3社同様、国際的に有力な保険グループであるAllianz(ドイツ)、AXA(フランス)において、アジア地域の、グループ全体の収入に対する割合は、それぞれ5%、8%と僅少である。

平賀富一
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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