生命保険市場
(写真=PIXTA)


はじめに

アジア各国の生命保険市場の急速な発展と今後さらなる拡大が見込まれる中、欧米日の大手企業に加え、近年は、韓国・台湾・アセアンの有力企業も参入しての競合する状況が生じている(図表-1参照)。

外資大手生保1

本レポートでは、アジアの多くの市場で大きなマーケットシェアを有する、プルデンシャル(Prudential、本拠:英国(*1))、AIA(本拠:香港、かつては米AIG系)、マニュライフ(Manulife、本拠:カナダ)の3社を中心に考察し、外資企業によるアジア生保市場での事業活動の特徴点と成功要因等について、筆者の見解を述べたい。

(本稿の論点の詳細や国際ビジネス理論の観点からの考察については、平賀(2013)および2016年1月に刊行予定の拙著「生命保険企業のグローバル戦略-欧米系有力企業のアジア展開を中心として-」(文眞堂)をご参照いただきたい)


長い営業の歴史と先行者利益の享受、自社主導の経営志向、社名・ブランド認知の取組み

アジア地域での事業開始は、マニュライフが1897年、AIAが1919年、プルデンシャルが1923年と古い。このことにより、現地市場の特性・慣行・文化についての組織学習や、官民各層等における人脈構築等における利点を享受していると推量される。また、3社は監督官庁や保険業界への情報提供・技術支援や、CSR活動等により進出先各国の各層への貢献を積極的に行っている。

それらの取組みや各機関・人材との関係性の構築による成果と思われる事例を挙げれば、AIAの、中国における外資企業の中で最初の免許取得や、外資出資の上限が50%とされる同国で唯一の例外として、支店形態での参入を認められていることが挙げられよう。また、図表-2にあるように、3社はタイ・インドネシアなどでも、通常の外資出資規制の水準を上回る比率での出資が認められている。

外資大手生保2

3社はともに、単独出資・メジャー(過半)出資の志向が強いが、それは自社の方針・戦略・ビジネスモデルによる、経営・営業の遂行とコントロールを意図していると考えられる。

この点に関し、AIAは、その株式上場目論見書(AIA、2010)において、「先行して多くの市場へ参入したことにより、競合社が追随困難な所有構造や事業インフラを確立する上での歴史的な優位を与えられ、かつ、各国での保険事業のパイオニアとして貴重な経験を得て、多くの保険市場の発展に貢献してきた」と述べている。

また、ブランド力強化が、販売網を支援し業績を拡大することや、有能な人材を採用するために重要なものと認識し各社共に積極的な取組みを行っている。

その典型例と見られるプルデンシャルのインドネシア拠点では、広告・宣伝に加えCSR活動も含む集中的なブランド浸透の取組みにより、15年間余りの短期間で、創立から約100年の歴史を有する地場有力企業(「Bumiptra1912」社)を凌駕する高い認知度を達成している。