一時は高まったアベノミクス本領発揮の期待

さらに時を遡ってみると、2015年春闘では、大企業の積極的な賃上げ・ベアが大きく報道された。

2.52%というアップ率(7月11日発表の経団連最終集計結果)に、海外経済メディアの中には、「10数年間で最大の賃上げ率」と報じたところもあったほどだ。

中小企業のアップ率も過去2年を上回る1.87%(従業員数500人未満、集計可能な17業種、461社の総平均)となり、いよいよ、アベノミクスが本領発揮の局面に入ったかの期待も生まれた。

有効求人倍率の順調な上昇、ほぼ完全雇用と言える3.4%水準まで低下した失業率など、労働市場の引き締まり感もフォローの風を感じさせた。

ただこの時点でも、アベノミクスに対して疑問や批判を投げかける識者(「構造派」と呼ぼう。代表格は野口悠紀雄・早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問)は少なくなかった。

喝采を送るいわゆる「リフレ派」(代表格は浜田宏一・米イエール大名誉教授)との争点は主なところ二つに集約されよう。

一つ目は円安の効果をめぐる評価。輸出へのプラス効果を重視するリフレ派に対し、「構造派」はむしろ交易条件の悪化、所得の国外流出というマイナス面に警鐘を鳴らす。

二つ目はいわゆる「トリクル・ダウン」の見方だ。トリクル・ダウンは本来「汗などがポタポタ垂れる」といった意味の英語だが、経済の世界では、「まず富める者を後押し。その効果はやがて全体にも浸透する」という政策態度を意味する。

アベノミクスが狙っているのも、「大企業・輸出企業→中小・国内向け企業」、「大企業利益→雇用者賃金」、「資産家の金融所得増→消費増→ 一般雇用者の所得・消費増」、「中央→地方」といった波及効果だろう。問題はこうした波及がどれだけ待てば起きるのかだが、最近の経済実態は必ずしも明るい期待をもたらすものではない。