(写真=PIXTA)
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ZUU Online読者の中で海外投資を積極的に行っている人は多いだろう。積極的に別荘などを購入したり、あるいは外貨預金を行ったり株式や債券を保有したりしている人も少なくないはずだ。目先の利益の追求だけでなく、先行きの暗い日本に対する不安を背景に、財産を効率よく我が子に遺す方法を模索している姿勢の表れだと思われる。

ただ、「子供が今留学しているシンガポールだったら贈与税も相続税もかからない。だから完全無税で子どもに財産を遺せる」などと考えているのならば、それは見当違いだ。この場合でも日本の相続税は課税される。そう、現行の日本の相続税の課税要件は、きわめて厳しいのだ。

完全無税は難しい? 今の相続税の仕組みとは

一昔前は「海外にある財産を、海外在住の相続人に受け継がせれば、日本の相続税はかからない」とも言われていた。しかし現在は基本的に「被相続人か相続人のいずれかが日本にいたら相続税はかかるもの」と思っておいた方がいい。具体的には次の通りだ。

1.無制限納税義務者:日本を含め、全世界にある財産について相続税を納めなくてはいけない相続人。

ケースに応じて呼称が次のように分かれる。

(1)日本国内に住んでいる相続人。「居住無制限納税義務者」という。被相続人がどこにいようとも、全世界の相続財産について課税される。

(2)相続人と被相続人の相続開始時の状況に応じてつぎの3パターンに分かれる。ざっくり言うと「相続人・被相続人ともに海外在住期間が5年超」以外の場合と考えると分かりやすい。「非居住無制限納税義務者」という。これも、全世界の相続財産について課税される。

①日本国籍のある相続人が海外在住者である場合で、かつ、被相続人が亡くなった時に日本在住の人だったか、あるいは死亡の時までの海外在住期間が5年以下の人だったとき

②日本国籍のある相続人が海外に住んでまだ5年以下の場合で、被相続人が死亡の時までの海外在住期間が5年超の人だったとき

③日本国籍のない相続人が海外に住んでいる場合で、被相続人が日本在住者だったとき

2.制限納税義務者:1以外の相続人。日本国内に所在する財産についてのみ相続税を納めなくてはいけない。具体的には、

(1)日本国籍のある相続人及び被相続人の海外在住期間が、ともに被相続人の死亡の時においていずれも5年超の場合

(2)日本国籍のない相続人が海外在住者の場合で、日本国籍のある被相続人が死亡の時点で海外に在住しているとき

なお、「日本に住んでいるかどうか」という判断については、単純に住民票上の住所が基準となるわけではない。税法は原則「実質課税」ベースなのだ。また、仮に相続人も被相続人も海外在住者だからといって、日本国内にある財産にかかる日本の相続税が単純にスルーできるわけではないので注意したい。

どれが「国内」でどれが「海外」?税法上の財産所在地の考え方

制限納税義務者に該当した場合、国内財産については相続税を納めなくてはならない。ここで難しいのが「財産の所在地の判定」だ。不動産や動産など、「モノの所在地が海外だから海外資産だ!」と、肉眼で分かるものはさておき、有価証券や預貯金については、実体がないのでパッと見で所在地は分からない。外貨預金や外国株、外債など、「外国」と名前がつけば、すべて「海外財産」に該当するのだろうか。

実は相続税法上に一定のきまりがある。主だったものは次のように判断する。

1.外貨預金…その預入をした支店の所在地。その預け入れをした支店が日本にあるなら、国内資産、預け入れをした視点が海外にあるなら海外資産。言い換えれば、円預金でも、海外の支店で預け入れたのなら海外資産になる。

2.外国株式…海外資産。株式は発行法人の本店所在地が判定の基準となる。この場合、国内の証券会社を通じて購入したか、それとも外国の証券会社を通じて購入したかは関係ない。

3.外国債券…海外資産。公社債については、その発行体の所在地が判定の基準となる。この場合も、国内の証券会社を通じて購入したか、それとも外国の証券会社を通じて購入したかは関係ない。なお、日本政府が外貨建てで発行した国債は、発行体が日本であるため、国内資産となる。

4.外国投資信託…外貨建てMMFや証券投資信託の場合、目論見書に記載された信託の受託者の所在地が判定の基準になる。大抵の場合は海外にあるため海外資産に該当するが、きちんと目論見書に目を通すこと。

他にも、財産の種類ごとに所在地判定の仕方は異なる。分かりにくいものもあるので、専門家に相談するのがベストだ。

国税が仕掛けた税法包囲網

これまで見てきた日本の相続税の内容を細かくチェックし、課税をされないための要件をすべて満たしたとしても、状況によっては完全に税金逃れをするのは難しい。海外諸国の税務当局と同様、日本の国税庁も富裕層の資産フライトに目を光らせるようになってきたからだ。

そのフライト包囲網の一つが、2015年7月から施行された出国税(正式には「国外転出の場合における譲渡所得の課税の特例」)である。この制度は、そもそも、富裕層の贈与税・相続税逃れを防止するために作られたものだ。

仮に子供が既にシンガポールのような相続税非課税国の在住者であり、保有している有価証券等は全て海外資産に該当するものとしよう。そのわが子に無税で資産を遺すため、自身も子供の在住国に出国するとしても、もし保有している有価証券等の時価総額が1億円以上の場合には売却したものとみなして出国時までに売却益相当額についての所得税を納めなくてはいけないのだ。

マイナンバーで「包囲網」固く

無言で出国しようとしても、日本在住時に国外財産調書で外国株式の保有については国税に筒抜けだし、マイナンバー制度が浸透すれば、住民票の異動手続きがあったらすぐに当局に知られる可能性も高くなる。私たちが考える以上に、包囲網は徐々に固められているのだ。

また、保有有価証券等の中に国内資産に該当するものがあれば、それについては出国税の対象となるだけでなく、相続開始時の日本の相続税も課されてしまう。

富裕層の相続税対策は、日本だけでなく、世界各国で数年前から行われている。OECD加盟国や欧州諸国を中心に税務に関する情報を各国間でやりとりし、国際的な租税回避防止に努めているのが現状だ。今後も、その流れはますます加速するだろう。

投資をするならば、「いかにトクするか」だけでなく、その投資によるリスクは何か、そしてそれは自分の子や孫の将来に影響を及ぼすものであるかどうかについても配慮していただきたい。

鈴木 まゆ子 税理士
鈴木まゆ子事務所代表。 2000年、中央大学法学部法律学科卒業。ドン・キホーテ勤務中に会計に興味を持ち会計事務所に転職する。妊娠・出産・育児をしながら税理士試験の受験勉強を続け09年に合格。12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を行う行政書士の夫とともに外国人の決算・申告・コンサルティングに従事。14年から国際相続などを中心に解説記事作成業務を行っている。8歳、5歳、2歳の三姉妹の母。

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