市場関係者の間で、リーマン・ショックの発端となった出来事とも言われる「パリバ・ショック」の再来を懸念する声が囁かれている。今月14日の月曜日、日経平均が前日に比べ一時600円以上下落した。米国の原油指標であるWTI価格が6年10ヶ月ぶりの安値に急落したことを受け、投資家のリスク・オフ姿勢が高まったためだ。

パリバ・ショックは、07年8月にフランスの最大手銀行BNPパリバが傘下ファンドの償還停止を発表したことで市場に疑心暗鬼が広がり、欧州銀行への資金の貸し手がいなくなったことで起こったもの。その余波を受けて同月末にはドイツのザクセン州立銀行が破綻した。同行は主にコマーシャル・ペーパー(CP)で資金調達し、米サブプライム(低所得者向け)住宅ローン担保証券などに投資していたが、パリバ・ショックによる信用収縮で資金が回らなくなった。

今振り返れば、まさにこれがその翌年9月以降の世界金融危機を招いたリーマン・ショックの走りだったわけだが、それを警告する関係者はほぼ皆無だった。

現在、これと似たことが米国で起きている。今月10日、米投資会社サード・アベニュー・マネジメントは同社が運用する「フォーカスト・クレジット・ファンド」で投資家からの解約受付を停止すると発表した。米国のミューチュアル・ファンドの破綻規模としては、リーマン・ショック以降で最大になるという。またその翌日にはヘッジファンドのストーン・ライオン・キャピタル・パートナーズが一部ファンドで同様の措置をとった。

この2社の投資対象はいずれも利回りが10%を超えるような、つまり信用力の低い債券で、「ハイ・イールド債」、「ジャンク債」などとも呼ばれる。発行元はエネルギーや素材関連の企業が多いことから、原油安と米利上げによる経営悪化への懸念から債券価格が急落し、市場が混乱している。

代表的指標であるSPDRバークレイズ・ハイ・イールド債

ETF(JNK.US)でみると、11月に3%下落した後、今月も既に6%以上値下がりしている。また、米国のファンド調査会社リッパーによると、米ジャンク債ファンドからの資金流出額は先週38.1億ドル(約4700億円)で前週の34.6億ドルからさらに膨らみ1年4ヶ月ぶりの高水準となっている。これらの低格付債は流動性が低いことから買い手がいなくなると価格が急落するのが特徴。今まさに「売りが売りを呼ぶ」展開になっており、ファンド破綻が今後も続くことが懸念されている。

ただ、これまでのところ、破綻ファンドはいずれも規模がさほど大きくないことから重大な金融パニックにはつながらないとみる関係者も多い。リーマン・ショック後に強化された数々の金融規制が安全弁になるとみるためだ。確かに、大手金融機関は資本を積み増し、自己勘定による商品・金融取引も制限され、銀行間の信用不安は高まりにくくなっている。

ファンド破綻は金融危機につながらない?

しかし一方で、これらの商品類はディーラーが手持ちを減らしたことで取引量が低下し、流動性が低くなっているのも事実。これが価格乱高下の一因だ。

とくに心配なのは原油安。先の急落の主因は12月のOPEC(石油輸出国機構)総会で減産が見送られたことだったが、先週には米議会が40年来の原油輸出禁止措置の解除で合意した。ここまで原油がだぶついたのも、シェール革命で米国が原油を自給できるようになったという要因が大きい。

その米国が本格的に輸出を開始すれば世界的な供給過剰に拍車をかけかねない。イランの経済制裁が解除されれば、これも供給増加要因だ。このため、来年にもWTI価格の30ドル割れを予想するアナリストもいる。

また米利上げでさらにドル高が進行すれば他の資源価格への下押し圧力も強まる。資源輸出に依存する新興国にとっては自国からの資金逃避と並ぶゆゆしき問題だ。新興国のなかには企業部門が多額の負債を抱えているところもあり、IMF(国際通貨基金)はデフォルト(債務不履行)が急増する恐れがあると警告している。

資源価格の下落が続けば局所的に深刻事態も

新興国ではかつてに比べれば外貨準備高が大きく積み上がっているため、一国の経済が行き詰まる可能性は薄れている。それでも多くの民間企業が破綻したり、国営企業の多額の対外債務を国が肩代わりするようなことにでもなれば、資本市場や財政が大きなダメージを受けるリスクがある。

産油国のソブリン・ファンドの動向も要注意だ。投資規模の大きいサウジ・アラビアやクェートなどが、原油安で急悪化する財政の埋め合わせのために大規模な売却に動く可能性がある。

こうみてくると、リーマン・ショックのように全世界を巻き込むほど大規模な金融危機は起こらないかもしれないが、新興国の経済不安や主要市場を巻き込む株価急落など、局所的に「深刻な状況」に陥る可能性は決して小さくない。投資家はこのようなリスクへの備えをしておく必要がありそうだ。(上杉光 シニア・アナリスト)

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