先日久しく両親に電話をかけた。年末年始の過ごし方を聞き、よければ一緒におせち料理でもと、提案をするつもりだったのだ。しかし本題に入る前に、長い時間別の話題を話し続ける両親に、少々面食らった。その話題とは「相続」である。
実は筆者、今年に入って初めて、自身に「叔父」が二人もいたことが判明したのだ。どちらも母方で、事情があって「あえて話さなかった」のが母の言い分なのだが、それにしても何だか他人事のようなのである。今回は、両親の話も含め、日々の相談案件の中で起こりえる、相続に多い「思い込み」について紹介しよう。
まだいるかも知れない!法定相続人
相続といえば、まず思いつくのが、「相続税」だろう。今年に入り、相続税の基礎控除が減額されたのを受け、「相続税が増える」もしくは「相続税の支払い対象になった」という人は、確かに増えている。
相続税額の計算をする際に、まず考慮されるのが「法定相続人が何人か」ということだ。当然、法定相続人が多ければ多いほど、支払うべき相続税額は少なくて済むのが、わが国の税額計算方式だ。
その「法定相続人」。直系卑属(子や孫)がいる場合は、ほとんどの場合問題にならないのだが、最近は子供のいない夫婦も多い。加えて、独身で身寄りのないケースも目立つ。さらに加えておきたいのが、「超高齢相続」が増えたことだ。
たとえば、通常思い描く相続発生時の各年齢は「被相続人:80歳の親」「相続人:65歳の子」というイメージが一般的ではないだろうか。
しかし昨今では、このようなケースもある。「被相続人:95歳の祖父母、(75歳の子は他界)」「代襲相続人:50歳の孫」ーー90歳、100歳まで生きるのが珍しくもないこの時代、孫の40~50歳代よりも先に、80~70歳代の「親」が他界することは、十分にありえる。
この場合いったい何が問題かというと、相続をきっかけに「今まで会ったことのない親戚ともめる」事である。
自分の知っている範囲だけが「親戚」ではない
核家族化がすすむ都会はもとより、日常的に家の行事が多い地方の大家族ですら「よく知らない」親戚は、どの家庭にも存在するのではないだろうか。それが世代を超えての相続となると、尚更である。遺産分割協議は、相続人全員の参加が大原則。
ひとりでも参加していない相続人がいた協議は無効になるのだから、嫌でも全員の署名捺印を取り付けなければならない。これが大変なのだ。いざ相続が発生すると、今まで会ったことのない「親戚」が出現するのである。
相続については年に1度くらい「お正月に顔を合わせた時にでも家族間で話し合いましょう」というセリフよく耳にするであろうが、実際なかなかできないものだ。
それが「打ち明けていない、もしくは該当するとは思ってもいない親戚」について、日頃からコミュニケーションをとりましょう、というのは、少々非現実だ。とはいえ存在を無視することはできない。相続人が増え、基礎控除を除いた相続税額が減るのは大いに結構なのだが、当然相続する財産額も減る。
読者の皆さんの「家系図」は、どのようなものだろうか。自分の知っている範囲だけが、「親戚」ではないかもしれない。
故人の預貯金口座凍結と生命保険
相続が発生すると、即座に被相続人の銀行口座が凍結する!と思われる方は、多いかもしれない。たしかに、銀行は「預金契約者の死亡の事実を知った日」から、即座に口座を凍結する。
しかし中には、凍結されずにずっと、暗証番号とキャッシュカードを保有していれば、事実上故人の預金を自由に使えてしまうケースも少なくないのだ。
というのも、役所に死亡届が提出されたからといって、自然と銀行にその情報が流れるわけではない。銀行がその情報を知り得るのは、主に新聞の「お悔み欄」や、相続人からの申し出などである。情報がなければ、当然銀行は何のアクションも起こさない。
さらに最近では、故人の入院費未払い請求や葬儀代などに関しては、一定の書類等をそろえれば遺産分割協議前でも、ある程度柔軟に対応してくれる銀行も増えてきた。
一昔前までは、「銀行口座が凍結されるから、葬儀費用は保険で用意しましょう」という決め台詞があったものだが、今は必ずしもそうではない。とはいえ、生命保険は「受取人固有の財産」である。相続発生とともに「生まれる」財産であることから、つい相続財産と思われがちだが、正確には違う。民法上はあくまでも「受取人の財産」なのである。だから、先の事情などから遺産分割協議がスムーズに進まない場合でも、取り急ぎ必要な資金に関しては、生命保険で用意しておくのは、実に有意義である。
相続は、一生のうちにそう何度も経験するものではない。経験をして分かることが多いものだが、それも十人十色のケースばかり。同じものは二つとないのが相続である。筆者も少々やっかいな家系を持つ。来年は自身から話題を提供して、まずは「知る」事から始めたい。
佐々木 愛子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅱ種、相続診断士
国内外の保険会社で8年以上営業を経験。リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして独立し、販売から相談業務へ移行。10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。
FP Café
登録FP
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