2015年の年末に突如、日韓の慰安婦問題が大筋合意に達した。日韓関係において長きにわたり最大の懸念として存在していた慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的な解決策」として日本政府と韓国政府が解決に向けて本格的に進みだした。
日本政府が旧日本軍の関与を認めると共に、約10億円を支出して元慰安婦に対する基金を作るとした合意だ。
この合意内容については日本国内、韓国の双方において賛否両論が存在しているが、経済だけに注目するならば、この合意によって日韓関係が改善するのは好ましいことは間違いない。今こそ改めてイデオロギーを超えて慰安婦問題の論点について整理するべきタイミングだろう。
慰安婦問題とは何だったのか
「慰安婦問題」もしくは「従軍慰安婦問題」と言われているこの問題については、様々なイデオロギー、もしくは政治的立場によって意見が様々存在している。そもそも慰安婦という制度自体が存在していないという話から、小学校入学前に相当する様な子供までいたといった話まで両極端な説が存在している。
しかし政府間や学術的、史学的な議論で問題になっている点はただ一点、「強制性があったか否か」だ。当時の女性に対する権利の考え方については問題点も多く、日本に限らず世界各国でその様な施設・制度があったことは確かだ。
その為、慰安婦制度自体の存在は日本政府も否定はしていない。また軍施設に併設していた事からも軍がまったく関与していないという事は逆に不自然だ。しかし、彼女らを軍が強制的に連行していたのか、それともビジネスの一つとして民間企業が行っていたのかでは話は大きく異なる。この「強制的」であったか否かが過去の日韓における問題点であった。
朝日新聞などの誤報や誤訳によって複雑化
この問題は日韓関係のみに存在する問題ではない。にも関わらず日韓において極めて大きな問題になった最大の理由は、誤報と誤訳によるものだ。
誤報については朝日新聞が1982年9月以降特集を複数回行いながら、後に誤報であると認めた俗に言う「吉田証言」だ。これは元軍人自らが、軍の命令により、女性を強制連行し慰安婦にしていたとの告白を行った証言だ。200人の女性を拉致したとも証言をしている。強制連行を行った本人による証言であるとして信頼性の高い証拠として長らく認められてきた。
しかし、ら致したとした島の出身者からその様な事実は無かったと否定され、本人もフィクションであったと認めた為、2014年に朝日新聞は吉田証言自体が虚偽であったと認定し、過去の記事を初報から32年後に撤回した。
この誤報が国内外における強制性の有無についての大きな火種になり、現在でも続く問題の一因となっている。もう一つは“sex slave”という単語の誤訳、また認識相違の問題だ。この単語は、米国ペンシルバニア州立大学の社会学のキャサリン・バリー教授が論じた言葉であり、「売春、結婚、家庭における女性や児童に対して男性から性的行為を強要される状況は、暴力による奴隷制である。」という物だ。
従来は娼婦や夫婦間でのドメスティックバイオレンス、もしくは親子間での性的虐待が存在している状況を奴隷制度に見立てた物であり、多くの人が考える「暴力などにより仕事として、性的行為を強制的に行わせる奴隷」とは少々意味が異なる。
しかし国内のマスコミは“sex slave”を「性奴隷」と訳し、強制的に性的業務を行わせたかの様に議論した為、右派からは強制性は無かったとの反論、それに対しては左派からは慰安婦制度はあったとの反論が起こり、論点がズレた議論が長らく行われることとなった。
合意による経済への影響
日本と韓国の両国は地理的、また歴史的にもお互いに極めて関係が深く、最も重要な隣国同士である。アジア太平洋地域の平和と安定のためにも日韓関係は良好である事が重要となってくる。経済的にもお互いは中国や米国に次ぐ第3位の貿易相手国でもあり、人の往来も年間500万人近い。経済的にもお互いに大きな影響がある関係だ。
今回の合意によって日韓関係、特に韓国側から日本側に対する意識が緩和されることは経済的メリットが大きい。日本企業にとって韓国へ進出がより容易になると共に、合意により解決に向かうことで反日意識が薄まれば日本への観光客の増加などにより経済的効果も期待が出来る。反日親中寄りであった政策もニュートラルに、進め方次第では日本寄りになってくる可能性も高い。この合意は日本経済全体に対してもプラスと考えられている。
両国間に長らく最重要の問題として横たわっていた慰安婦問題が今回の合意により解決に向かうことは望ましい。日本や韓国国内からも異論があるものの、世界的には今後韓国と北朝鮮が統一した場合には、かつてのドイツの統一時同様に、技術力の南部と資源の北部の連携により工業立国が行われるとの見方も根強い。
今回の合意によって日韓関係の再構築が行われることを単なる歴史問題の解決としてみるのではなく、今後の韓国における日本の権益を得るきっかけ、窓口作りであるとして見ながら今後の推移を注視していきたい。
木之下裕泰(金融・政治アナリスト/MBA・金融工学修士)
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