(写真=PIXTA)
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2015年11月11日の「独身の日」ネットセールは、アリババ集団だけで912.17億元の巨額を売り上げ、世界の耳目を集めた。

企業別売上では1位「小米」、2位「華為」3位「蘇寧」という順で、1位と2位はスマホメーカー、3位は家電量販店大手である。「蘇寧」でもスマホは売れたに違いないから、間違いなくこの大セールで一番売れた商品はスマホだろう。

また社会商品品小売総額という個人消費指標を見ると通信機器類は、+33.0%(2015年1月〜11月)も伸びている。中国人は「スマホ命」の状態と言ってよい。

1990年当時の中国では、日本からの電話やファックスはいつつながることやらまったく分からなかった。国際経済都市・上海ですらこのありさまで、田舎へ出張すれば日本との連絡手段はまったく絶たれ、かえって自由を満喫できた。一般家庭の固定電話もほとんど普及していなかった。

それから25年しか経っていないが、今や中国のスマホ(4G)契約数は10億件を超えたとされる。中国人は日本や欧米に比べ、何倍にも濃縮された通信環境の著しい進化を経験している。スマホに夢中になるのも無理からぬところだ。以下、中国スマホの特色ある役割や用途を挙げてみる。

個人消費を牽引する中国スマホ

最近、沿海部のQ市政府は、詳細な労働市場分析を公布した。486の職位別の年間賃金を分析し、そのガイドラインを示したものだ。

それによると年間10万元以上収入のある職位は19だった。1位は銀行の貸付担当で16万5308元、最下位の486位は美容師で2万3489元だった。3万元〜7万元クラスが大部分を占めている。ところが同時期に発表された、支付宝(アリペイ=アリババ集団のオンライン決済システム)年間利用額の全国リストによると、Q市民は平均5万5844元もこれに使っている。日本人で給与所得の全てを楽天やアマゾンに消費する人はいるだろうか。統計が正しいとすれば、Q市民はそんな人ばかりになってしまう。中国というところは、どこにどれだけお金が潜んでいるのか全く不明だ。

それはともかく、これら巨額のネット通販売上(小売総額の12.7%)をけん引したのはスマホの急速な普及である。淘宝(CtoC)天猫(BtoC)を運営する最大手アリババ集団は、スマホとシンクロしながら大を成したと言ってよい。今後さらにその動きを強めていくのは間違いない。

具体的には支付宝の資金プールを利用した貸付や、決済機能(上海地区のマクドナルドで支付宝決済を実験中)がスマホで試行中である。やがて銀聯カード全盛時代は去り、中国人が世界中の観光地で、支付宝のスマホ決済をする、カードレス時代が訪れるかもしれない。

武器としての中国スマホ

中国の公安当局は2015年8月、サイバー犯罪取り締まり作戦で1万5000人を逮捕したと発表した。

しかしそれでも「有害」投稿の途絶えることはない。実際、江沢民や金正恩のパロディー動画や、失脚した解放軍トップの隠し財産の写真など、面白いものを見ることができた。当局に削除されるまでの、陽炎のようなものである。幹部に対する告発もたびたびアップされている。

某地区の党委書記Rは、党員8人、住民代表2人、計10人の連名で、これまでの反人民的行為、蓄財財産目録などを詳細にアップロードされた。

ところがすぐに削除され、R書記は人生最大のピンチをどうにか切り抜け生還した。しかし失脚する例も増加中だ。2015年には33.6万人もが何らかの処分を受けている。マスコミに権力監視機能のない中国では、スマホは不正追及の有力な武器となった。そのうち腐敗幹部告発用アプリなども登場しかねない。

ところで、この種のきわどい情報は、ほとんど友人から得る。具体的には受信も発信もテンセント社の無料メッセンジャーアプリ「微信」に依っている。LINEのチャット機能とFacebookのSNS機能を合わせ持つ便利なものだ。すでに強固なインフラとなっていて、ライバルは存在しない。噂はこれを通してアッという間に拡散する。当局も無視できず、逆にアカウントを開設し情報発信(統制?)のため、利用するようになった。

著作権フリーの中国スマホ

昨年のクリスマス前、某中国人女性がスマホで、セリーヌ・ディオンの歌う「Happy Christmas」を聴いていた。筆者が「オリジナルは元ビートルズのジョン・レノンだが知っているか?」と聞いてみると、「知らなかった。探してみる」との返事。すると1分後にはオリジナルが流れ始めた。聴き比べを終えた彼女は、「セリーヌのほうがいいわね」と感想を述べた。

このように中国スマホでは、無料で聴くことのかなわない楽曲は、まずない。

日本のテレビドラマもスマホアプリを通し自由に視聴できる。いろいろな変遷を経て、現在は「bili bili」というアプリが使いやすい、とされ人気を博している。相変わらず知的所有権、著作権の尊重という思考はどこにもない。

偽CD偽DVDの時代には、押収品の大量処分を公開するなど、当局も対策に注力していることをアピールできていた。しかしスマホ時代に入り、逆に野放しになってきたようにも見える。

中国のスマホは、このように表裏ともに独自用途が付加され、日本や欧米とは別進化の道をたどっている。今後もおそらくそうだろう。近いうちに中国スマホを、ガラパゴス・多機能スマホなどと揶揄(やゆ)する日がやって来るかもしれない。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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