分析結果

図表3は、住宅費・教育費割合別の「金融資産年収倍率」です。数値は平均値、( )内は標準偏差、[ ]内はサンプル数を表します。住宅費の割合が高くなるほど、また教育費の割合が高くなるほど、金融資産年収倍率が低くなる傾向が見てとれます。

つまり、収入に占める固定費支出が多いほど、お金が貯まっていない構造が明らかです。また、どちらかと言えば、住宅費の方が、お金が貯まらないことへの影響が大きくなっています。例えば、「住宅費低・教育費低」グループの金融資産年収倍率は約2倍、つまり年収の約2倍の金融資産を保有しています。これに対して、「住宅費高・教育費高」グループでは、年収の約0.7倍しか金融資産を保有していません。

一番右の列は、住宅費の影響です。住宅費の割合が高くなると金融資産年収倍率が低下しています。また、一番下の行は、教育費の影響です。教育費低が最も金融資産年収倍率が低く、教育費中・高には大きな差がないように見られます。

固定費の見直し3

図表4は、住宅費・教育費別の「目標到達率」です。住宅費が高くなるほど、教育費が高くなるほど、目標到達率も低くなる傾向があります。

例えば、「住宅費低・教育費低」グループの目標到達率は57%、つまり、65歳で必要と考えられる金融資産額の57%を既に貯められています。これに対して「住宅費高・教育費高」グループの目標到達率は21%であり、最も目標から遠いグループです。

一番右の列は、住宅費の影響です。住宅費が高くなると目標到達率が低下しています。また、一番下の行は、教育費の影響です。教育費が高くなると目標到達率が低下しています。

固定費の見直し4

巻末の補遺は、「金融資産年収倍率(左側の表)」と「目標到達率(右側の表)」について、30歳代、40歳代、50歳代の年代別に見たものです。年代が異なると、収入や保有している金融資産額、住宅を購入した年や子供の年齢等が違うことにより、多少の差がありますが、基本的には住宅費が高くなるほど、また教育費が高くなるほど、お金が貯まらなくなる傾向があります。

ただし、住宅費の方は、50歳代で異なる傾向も見られます。教育費の方は、30歳代及び50歳代での影響は大きく、40歳代での影響は小さくなっています。30歳代では、収入が相対的に少ない時期に教育費がかかり始めたことによる影響、50歳代では、子供が大学に行くかどうか、大学での授業料等の差が影響しているものと考えられます。

それでは、住宅費や教育費が高くなってしまう理由を少し考えてみましょう。

まず、住宅費についてですが、表1に戻って、列(3)は購入時の住宅価格です。住宅費低・中・高の何れのグループも、3,130万円~3,610万円と大きな違いがないように見えます。

しかし、列(4)の住宅価格の(現在の)家計年収に対する倍率をみると、「住宅費中」が4.0倍に対して、「住宅費高」は6.2倍と、年収でみて2年分以上の差があります(本来は購入時の家計年収で倍率を計算すべきですが、データがないためにこのようにしています)。「住宅費高」では、住宅購入時の際の一つの目安とされる「価格は年収の5倍」をはるかに超えています。

列(5)は、住宅購入時の住宅ローン借入額に対する(現在の)家計年収に対する倍率です。この倍率が高いほど、収入に比べて多くの借金をしたことを表しています(つまり頭金が少なかった)。

「住宅費中」が2.9倍であるのに対して、「住宅費高」は5.1倍であり、年収でみて1年分以上の差があります(統計学的にも有意な差がある)。「住宅費高」では年収に比べてより多くの借金をしたことになります(これも本来は借入時の年収と比較すべきです)。購入した住宅価格は、各グループで概ね差がありません。しかし、「住宅費高」グループは、年収に対して相対的に高い物件を購入した、つまり「少し背伸びた物件を購入した」と分析できます。

確かに、環境、景観、設備等の良い住宅に住むことによって、効用(幸福感)は高まるはずです。しかし、これは、住宅費支払いにより固定費が増加してお金が貯まらなくなり、安定した老後の生活がおくれなくなるリスク(犠牲)の上に成り立っています。