(写真=PIXTA)
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2016年の中国経済は、年明けから株式市場が急落する波乱の幕開けとなった。人民元も下落し続け、株価下落の元凶のひとつとされている。外貨準備高は大幅に減少した。もちろん人民銀行(中央銀行)が必死に人民元を買い支えている、という種の報道は、国内には出ない。しかし何となく景色が変わったという感覚は誰しも持っているようだ。

冴えない2016年のスタート

街にも元気がない。例年春節前に見られる、あたふたした忙しさをあまり感じない。「最近、渋滞が減ったなあ」という港湾地区を本拠とするタクシー運転手の言葉が印象的だった。

不動産はすでに所持しているがその価格は横ばい。その上株安、人民元安で資産価値の毀損(きそん)が進んでいる。フィナンシャルプランナーなどまともな相談相手は存在しない。今、中産階級以上の中国人は、資産運用の方向がつかめず困惑しているのに相違ない。

現行の外貨購入制限は5万ドル あるカナダ移住一家の例

「新たな外貨購入制限は課さない」1月14日、国家外為管理局のコメントを新華社が配信した。まず年間5万米ドル相当までという現行の制限政策について見てみよう。

これは出入り両方について適用される。入りの場合例えば中国駐在の外国人が、給料を人民元に両替できるのは年間5万ドルまでである。この数字に近くなると、銀行の方から知らせてくる。もしこれ以上必要な場合はどうするか。外貨で受け取り、中国人の5万ドル枠を借りて両替してもらうしかない。

“出”の場合について、面白い話を聞いた。某中小企業オーナー一家が、カナダへ移住した。カナダで家を購入することになり、中国側に送金を依頼してきた。400万元必要という。60万米ドル以上になる。それでどう対応したかというと、一族と社員13名以上に動員をかけたのである。それぞれの5万ドル個人枠を利用した。カナダドルへの両替、送金手続きともATM操作が可能で難しくはなかったという。このように5万ドル枠は一応厳密に守られている。そしてこうした表ルートの厳格さが、例外なく不法行為を誘発する。

中国の地下銀行「地下銭庄」とは

富豪クラスになると、投資移民や海外不動産の購入で、さらに巨額の資金を動かさねばならない。彼らはどのように対応しているのだろうか。もちろん裏ルートである。「地下銭庄」と呼ばれる闇組織がある。

マネーロンダリングや海外不正送金を得意とする、地下銀行である。シャドーバンキングを意味する「影子銀行」とはまた違うので、ややこしい。シャドーバンキングは、銀行の補完的な役割、合法的な金融業務も含むのに対し、「地下銭庄」とは高利貸しなどをも含む「組織的非合法金融業務」の総称としても使われている。

昨年11月の浙江省・金華市における「地下銭庄」事件では、人民銀行の反洗銭(反マネーロンダリング)部門の情報提供から内偵が始まり、摘発までに1年以上かけた。しかしすでに4100億元以上が海外へ送金されていた。

取引相手は1万4000の組織・個人に及び、北京、広東、江西、寧夏など全国に散在していた。取引額10億元以上の顧客は21人、1億元以上は610人、5000万元以上は1128人に上った。内部では大手国有銀行の外為OBが「社員」の教育訓練に当っていたという。

さらに今年1月に入り、広東省の警察当局は2015年1年間で83件の地下銭庄を摘発、231人を拘束した、と発表した。不正資金の額は2072億元という。そのうち東莞市で昨年4月に摘発されたケースが写真入りでネット上に公開された。被疑者は20名、1日平均の取引額は1700万元、月平均では4億元だった。

これらの大規模摘発は、富裕層の心胆を寒からしめただろう。有力な海外送金手段が細ってしまう。

そして外貨購入が増える

ネットで検索しても、銀行支店長にインタビューしても、外貨購入者が増えているのは間違いない。ネット上では、9時の開店と同時に銀行へ行くとすでに10人の客が並んでおり、そのうち8〜9人が外貨購入を求める同類だった、などの体験談が出ている。また中国銀行、中国建設銀行、招商銀行など外為に強い銀行の大型支店以外では、1000ドル以上になると予約が必要、などのノウハウ記事も載っている。

銀行支店長の話では、口座内資金ならネット上の手続きでも外貨に変換が可能なため、実際に支店でどれほど外貨購入が増加しているか正確にはわからないという。答えてはならない事案なのかも知れない。

これら直近の外貨購入増加は、人民元安と地下銀行摘発、つまり投資先の狭まりと資産の海外移転難とが相乗した結果といえそうだ。裏ルートが詰まって表ルートに皆が殺到し、新たな外貨制限策が導入される、との不安が強まった。パニックを避けるため外為管理局はそれを否定する必要にせまられた。とすれば、やはり事態は風雲急を告げているようだ。国は人民元買い支えのため、個人は投資のためにドルが必要で、外貨準備は減る一方である。設立したばかりのAIIB(アジアインフラ投資銀行)にも暗雲がたちこめそうだ。

とにかく当分の間、富裕層からの両替請負人も含め、銀行詣では続くのではないだろうか。何事についても一時休戦となる春節(2月7日元日)休暇、その明け後の動向に注目である。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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