(写真=HPより)
(写真=HPより)

全国一広い耕作放棄地を抱える福島県で、東日本大震災被災地の農業再生に向け、エネルギー作物の栽培実験がスタートした。セメント業界最大手の太平洋セメント(東京、福田修二社長)が福島大うつくしまふくしま未来支援センターと共同研究契約を結び、避難指示区域を抱える南相馬市で進めている。

耕作放棄地は急激な高齢化と採算の悪化から全国で広がっているが、福島県の浜通りは震災の津波被害と福島第一原子力発電所の事故でより深刻な状況。広大な栽培面積を必要とするエネルギー作物が、被災地の未来に希望を灯すことができるのだろうか。

トウモロコシに似たソルガムとナタネを栽培

太平洋セメント <5233> によると、栽培実験が進んでいるのは、南相馬市内3カ所にある耕作放棄地合わせて約1ヘクタール。昨年、ソルガムと呼ばれるイネ科の1年草を栽培、収穫した。ソルガムはトウモロコシに似た作物で、主に緑肥や飼料として利用されている。生育が非常に早く、春の終わりに種をまくと秋の初めに収穫できる。

現在はソルガムとの二毛作にどんな作物が適しているかを探るため、油脂を採るナタネを栽培するとともに、ソルガムから発生するメタン発酵ガスによる発電実験も進めている。今後、メタン発酵残渣の液肥利用、ナタネなど油脂作物の単位面積当たりの収量最大化、南相馬市の気候に合ったエネルギー作物の選定を進める。油脂作物は食用油の生産だけでなく、バイオディーゼル燃料としても活用する方向だ。

太平洋セメントがエネルギー、油脂作物の栽培と発電実験を担当し、単位面積当たりのバイオマス、エネルギー発生量を評価する計画。一方、福島大うつくしまふくしま未来支援センターの石井秀樹特任准教授が南相馬市の土地利用の現況を調査しており、今後、南相馬市でどれだけのエネルギー生産が可能か試算する。農地の管理や耕作作業の効率化、作付け指導には、地元の南相馬農地再生協議会が協力している。

エネルギー作物の生産で採算を確保するには、500〜1000ヘクタール規模の農地が必要とされ、日本国内ではこれまで、導入が困難と考えられてきた。しかし、太平洋セメントは南相馬市で震災により、耕作放棄地が拡大したことに目をつけ、被災地復興の願いも込めて栽培実験に乗り出した。

太平洋セメント総務部は「エネルギー作物と油脂作物の二毛作で収益構造の多角化を図れば、より小さな規模でも事業化できる。将来はメタン発酵によるバイオガス発電で地元にエネルギーを供給する事業展開も考えていきたい」と意欲を見せる。

被災地に広がる大量の耕作放棄地

地方は今、人口減少と高齢化社会の進行が止まらない。このため、耕作を放棄する農地が全国的に急増している。農水省がまとめた2015年農業センサス(速報値)によると、全国の耕作放棄地は42万4000ヘクタール。5年前の前回調査に比べて7%増え、過去最大を更新した。

特に福島県はその状況が深刻だ。福島県は県土が広く、中山間地域を多く抱えることから、震災前から都道府県別で最大の耕作放棄地が存在してきた。養蚕や葉タバコの衰退に伴う転作が長く課題となってきたからだ。2015年農業センサスでも、2万5000ヘクタールの耕作放棄地があり、5年前より20%以上増加した。都道府県ではもちろんトップで、四半世紀にわたって1位の座を占め続けている。

しかも今回の調査では、2014年4月現在で原発事故に伴う避難指示区域だった双葉町、大熊町、飯舘村など7町村全域と、南相馬市、川俣町、川内村3市町村の一部区域が対象から外れている。避難指示区域を含めると、さらに耕作放棄地が広がることになる。

このうち、南相馬市は南部や西部に避難指示区域が広がっている。その区域を除いても9500ヘクタールの農地のうち、10%近い1021.8ヘクタールが耕作放棄地に該当する。だが、農地の除染作業は2017年春まで続く予定だ。

農家の高齢化、福島産農作物への風評被害、市を離れた避難住民の存在が、深刻なトリプルパンチとなり、耕作放棄地が広がったまま解決のめどが立たない。南相馬市は「耕作放棄地の再生は本当に頭の痛い問題だ」と厳しい口調で語る。

バイオガス発電に大きな期待

福島県は耕作放棄地再生利用緊急対策事業や被災者営農継続支援耕作放棄地活用事業などを進め、被災者らの営農支援を積極的に続けている。南相馬市など関係自治体も農地再生に力を入れているが、古里を離れた避難住民も多く、思うように土地利用の見通しを立てられないのが現状だ。

中でも避難指示区域は住民の避難が長期化し、今後数十年にわたって大量の農地が放棄されたままになると考えられている。そこで、福島県は最先端のITやロボット技術を農業に活用し、最小限の人員で放射性物質の混入に妨げられない農業の推進も検討している。

バイオガス発電やバイオディーゼル燃料の生産なら、風評被害の影響を受けにくく、広大な耕作放棄地を有効利用できる。その意味でも太平洋セメントの栽培実験は、苦境に立たされた被災地に光を差す可能性を秘めている。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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