(写真=PIXTA)
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日本でこのニュース「中国が米国債を大量に売却」が大きく取り上げられたのは、2015年の3月、8月、10月の3回である。1回目の3月は、米国債保有高が2014年9月から2015年2月にかけて、6カ月連続で前月比マイナスとなり、一瞬だが日本が6年振りナンバーワンに返り咲いたころ。2回目の8月はSDRバスケット通貨入りの思惑から人民元を意識的に下落させたが歯止めが効かなくなってしまい、米国債を大量売却。人民元の買い支えに回ったとされたころだ。3回目の10月下旬は、米財務省の発表により8月の米国債保有高は7月比で増えていたことが分かり、大量売却説がはっきり否定されたころに当たる。

実際は保有増だった米国債

中国(China Main Land)の米国債保有残高は、2014年11月からの推移を見ると、11月が1兆2504億ドル、12月は1兆2443億ドル、2015年1月は1兆2391億ドル、2月以降は1兆2237億ドル、1兆2610億ドル、1兆2634億ドル、1兆2703億ドル、1兆2712億ドル(6月)、1兆2688億ドル、1兆2705億ドル、1兆2580億ドル、11兆2548億ドル、そして11月が1兆2645億ドルと推移している(米財務省)。

多少の上下動はあっても、大量売却らしきところはない。15年11月の前年同月比では101.1%でわずかながら増えている。日本は2015年11月、1兆1449億ドル、2014年11月1兆2415億ドルなので、前年同月比は92.2%である。大きく減らしていたのは第2位のホルダー日本だった。ちなみに中国人の何かと便利な第二の財布、香港では同様に1966億ドル保有しており、こちらの前年比も118.7%と増加している。とにかく米国債残高は外貨準備高全体の減少傾向とは連動していない。

尻馬に乗った日本メディア

8月末の大量売却説の発信源は、アメリカ勢Bloombergやビジネスサイト情報のようである。外貨準備高は、実際に8月11日から24日の2週間で外貨準備が1060億ドル急減した、という具体的な報道があり日本メディアは飛びついた。

売却されたのは米国債に違いない。アメリカの国内投資家が受け皿になって、米国債所有を増やしている、とも伝えられた。さあ、ついに大量売却が始まった。株式バブル崩壊や天津大爆発事故もあり、「すわ今度こそ中国崩壊か?」という筋立てで熱心に語られた。

ところが10月に発表された8月の米国債残高は、7月比で逆に増えていたのである。何のことはない完全な空騒ぎだった。仮に中国側やBloomberg側に何らかのイメージ形成の意図があって、これで大儲けした投機筋等がいるとしたら、日本メディアも結果としてその片棒を担いだことになる。これでは、政府意図の忠実な宣伝に努める中国メディアと変わらない。中国情報はいちいち利益のからむことが多く、その扱いにはより一層の慎重さが求められる。

中国人は米国債を買っているのか

中国で「米国債を買う方法は?」とネット検索してみると、「米国債の組み込まれた理財商品を買うしかない」と出てきた。

そこで情報源の銀行支店長に聞いてみた。すると「ウチはそのような商品は販売していない、聞いたこともないし、ガセネタではないか」という返事だった。この支店は日本で例えるなら、メガバンクの名古屋駅前、京都駅前支店のような感覚で、地方中核都市の最重要支店である。

しかも同銀行はもともと富裕層の支持が厚い。ということは中国人が表ルートから米国債を買う方法はあまりなさそうだ。政府保有の米国債が、外貨を渇望する富裕層の手に渡ることも難しそうである。中国政府は基本的に米国債の増減をコントロールできているのではないだろうか。1月20日前後の中国ビジネスサイトには「中国は依然として世界一の米国債ホルダーである」との記事が出回った。

外貨準備減少の真因は闇の中

それでは2015年、通年で5000億ドル以上も減少した中国の外貨準備(14年12月末3兆8430億ドル、15年12月末で3兆3304億ドル)は、一体どの部分が消えたのだろう。中国の外貨準備に占める米国債の割合は30%程度である。律儀でアメリカに忠実な日本は、外貨準備と保有米国債の額は、ほぼイコールで分かりやすい。欧米諸国の外貨準備は伝統的に金が構成主体となっている。では中国の米国債以外の外貨準備はどうなっているのだろうか。

実はその構成はよくわかっておらず、諸説が飛び交っている。売却されたのはドイツ国債やアメリカの国債以外の準公債ではないかという説もあれば、中国は世界一の産金国であり、IMF申告外の金をたくさん秘匿しているのだろうという説もある。「いや、すでに習近平主席のバラまき外交やAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立資金などですべてツバがついており、ほとんど底をついている」という説すらある。

いつものようにあるところまで分析を進めると、必ずブラックボックスに行く手をふさがれ、それ以上立ち向かうことはできない。

最近では、逆にブラックボックスがあることで、世界を安心させるという喜劇的様相すらあった。ただし今回のそれは2兆ドルにも及び、巨大すぎてジョークの対象とはならない。やはり中国の闇は魔界としか思えないのである。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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