はじめに
最近、インドの生命保険市場について、調査していたことから、インドの統計数字をよく見る機会があった。インドの「命数法(数に名前をつけて呼ぶ方法)」は、基本的には、日本で一般的な4桁毎の位取りや、西洋で一般的な3桁毎の位取りではなく、2桁毎の位取りに基づいている。ただし、最初の3桁のみが例外になっているので、この点が若干ややこしい。
よく使われるものに、「ラーク(lakh)」、「カロール(crore)」という命数があるが、これらは、それぞれ1,00,000と1,00,00,000を表している。インドでの各種の統計数字や英字新聞等でも普通に使用されているので、インドでビジネスを行う場合には必須であり、一般の人も覚えておくと役に立つものと思われる。
「0(ゼロ)」が果たしている役割-数字の表記における意味合い-
日本は4桁毎の位取りをしていると述べたが、これに対応した命数法は「万」、「億」、「兆」、「京」等といった形になっている。一方、3桁毎の位取りをしている英語では「thousand」、「million」、「billion」、「trillion」等といった形になっている。
世界の各国がそれぞれの言語に基づいた「命数」を有しているが、これらを覚えるのは易しいことではない。ただし、これを数字で表してしまえば、誰でも数字の大きさのレベルを理解できることになる。
この際、現代世界では、通常、「0,1,2,3,4,5,6,7,8,9」の十種類の「アラビア数字(インド・アラビア数字)」が幅広く用いられる。
例えば、「2,704」というような数字を表現することを考えてみると、これを「ローマ数字」で表すと、「MMDCCIV)(M=1,000、D=500、C=100、IV=4)となる。ローマ数字は、「0」を表す表記を持たず、その一般的なルールに従った場合、4,000以上の値を表現できないが、アラビア数字では、「0」を用いることによって、どんな大きな数字も簡単に表現できる。
これに対して、「命数法」による数字の表現については、日本において「無量大数(一般的には1068を指すとされる)」の次は、と考えていくと、(もちろん「千無量大数(1071)」のような表現もあると思われるが)実質的に制約があるものと思われる。
このように、数字の表記においては、空位を示す「0」の存在が、その簡明さと実用性において、極めて重要な役割を果たしている。
「インドはゼロを発見した国」が意味するところは
インドは、「ゼロを発見した国」と言われるが、これの意味するところは、「零の発見-数学の生い立ち-」(吉田洋一著)、「数学史の小窓」(中村滋著)、「インドの数学-ゼロの発明-」(林隆夫著)等によると、以下の通り、「数としてのゼロを発見した国」ということになる。
(1)「記号としてのゼロ」
「記号としてのゼロ」とは、先に述べたように「位取り表記で空欄を示すための記号」を意味している。「記号としてのゼロ」が、最初に使用されたのは、紀元前数世紀のバビロニアで、プトレマイオス朝(紀元前306年~紀元前30年)のエジプトでも使用されていた。この有用性については、既に述べた通りである。
(2)「数としてのゼロ」
インドでは、2世紀頃に、「空白」「うつろな」等を意味するサンスクリット語の「Sunya」が「ゼロ」や「無」を意味する言葉として使われていたが、そのころは数字として扱われていたわけではなかった。
7世紀(紀元628年)に、数学者・天文学者であるブラーマグプタが、その天文に関する著書「Brahmasphuta Siddhanta」(宇宙の始まり)において、「0(ゼロ)と他の整数との加減乗除」について論じ、0/0を0と定義した以外は全て現在と同じ定義を用いた。これが、「数としてのゼロ」、即ち「数学的演算の対象として、初めて0(ゼロ)を取り扱った」形になっている。
「数としてのゼロの発見」により、0(ゼロ)を含んだ表記法で表された数字の計算が行えるようになり、「0(ゼロ)が加法(足し算)における単位元」として確立されることになった。
なお、「アラビア数字」については、インドを起源としているが、アラビアに伝わり、さらにヨーロッパに広まっていった。それまで、ヨーロッパの人々はローマ数字を使っていたが、より表記が簡明なアラビア数字が広まっていくことになる。