日常生活におけるゼロの持つ意味
さて、我々は、「0(ゼロ)」という数字を何気なく使用しているが、その意味するところや使われ方は状況によって様々である。ここでは、哲学的・精神的な観点等からの意味合いではなく、あくまでも実用的な観点から、「0(ゼロ)」が使用されているケースを考えてみる。例えば、以下のようなものが挙げられる。
(1)何も無いことの表示
「0(ゼロ)」はもちろん「無」「空」という意味において、何も無いことを表すのに用いられる。
(2)各種の数字の起算点
「0(ゼロ)」は各種の数字で表される事象等の起算・基準点としても使用されている。時刻、場所(緯度・経度・高度)、距離、各種の科学的な数値(温度、重量)等数多くのケースが挙げられる。この場合には、起算・基準となる「0(ゼロ)」が、いつ、どこで、どのような状態等を意味しているのか、を明確に定義しておく必要がある。
一方で、類似したケースで、「0(ゼロ)」を使用することが考えられるケースでも、以下のように、通常は「0(ゼロ)」を使用していない場合も見られる。
(1)西暦年数の呼称
西暦年数の呼び方については、一般的には西暦1年の前は紀元前1年であり、西暦0年という言い方はしない。これは、日付や年月は序数を表すから、と言われている。
ただし、天文学やISO8601(日付と時刻の表記に関する国際規格)では、紀元前1年は、西暦0年と定められている。
(2)住居の階数
住居の階数の呼び方が、米国と英国で異なっているのは良く知られている。米国式では、1階はFirstFloorであるが、英国式では、1階はGround Floorで2階がFirst Floorとなる。英国でもZeroth Floorとは言わない。
ただし、コンピューターの分野等では0から数えることもあるので、1st(First)、2nd(Second)と同様に、0th(Zeroth)という言い方もある。
ゼロか零か
日本語では、「0」の呼び方や記載方法として、「ゼロ」と「零(れい)」がある。その区別は必ずしも明確ではない。一つの考え方として「ゼロ」は全く無し、という意味であるが、「零(れい)」には、零細企業の表現に見られるように、「わずかに」「規模が小さい」という意味もある、とされる。
従って、天気予報における降水確率の「0%」は必ず「れいパーセント」と読まれ、「ゼロパーセント」とは読まれない。これは、降水確率そのものが、「算出の際、1%の位は四捨五入されるため、降水確率0%といっても、実際には0%から5%未満の値である」ことによる。
一方で、「ゼロ」を意味する「0点」については、試験の点数の場合は「れいてん」と読まれ、科学等で使用される場合には、あくまでも基準点を示しているという意味合いから「ゼロてん」と読まれるケースが多いものと思われる。
一方で、「零」についても、通常は「零下」「零点」「零敗」等「れい」と読まれるケースが多く、それが常用漢字の読み方に対応したものとなっていると思われるが、一方で、「零戦(ゼロせん)」とか、映画やゲームのタイトルでは「零」を「ゼロ」と読ませる形で使われるケースが多いように思われる。
結局は、明確なルールがあるわけではなく、過去からの習慣的な要素等も大きく関係しているようである。
最後に
数字の「0(ゼロ)」については、現代においては、あまりにもその存在が自然で当然過ぎて、日常生活においては、その存在意義や意味合いについて考えて見る機会もないものと思われる。ただし、その起源等を探ってみると、本当は極めて奥深いものがあり、結構複雑で重要な意味を持つものであることがわかる。
ここでは、その一端を簡単に紹介させていただいた。興味深く感じた人は、ゼロに関する著書も多く出版されているので、そちらを参照していただきたい。
中村亮一(なかむら りょういち)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部
取締役 研究理事
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