社労士,ブラック企業,ブラック社労士
(写真=PIXTA)

愛知県社会保険労務士会に所属する社労士が2015年12月、「社員をうつ病に罹患(りかん)させる方法」と題した文章をブログに公開したとして、日本労働弁護団や全国過労死を考える家族の会など6団体は管轄する厚生労働省に監督責任を果たすよう求めた。

この問題には2016年に入って動きがあり、2月12日、厚生労働省は社労士を3カ月の業務停止の懲戒処分としたと発表した。厚生労働省は「継続的に不適切な内容をブログで発信したことで社労士への信頼を失墜させ、社会保険労務士法で懲戒対象となる重大な非行にあたる」と判断した。

ブラック企業の思惑通りに動く社労士

ブラック企業やブラックバイトなる言葉は以前からニュースで報じられていたが、「ブラック社労士」についても注目されるようになったが、一体どんなものなのだろうか。ウェブサイト「弁護士による労働問題Online」の定義によれば、「労使紛争において、違法・不当な行為に加担する社会保険労務士」としている。ここでは「雇用形態を偽装する」「給与を誇張する」「サービス残業をさせる」「不当解雇を行なう」「退職を強要する」といった行為を先導する社労士のことだという。

NPO法人POSSE代表で雇用・労働政策研究者の今野晴貴氏は記事中で、「私は年間に3000件ほどの労働相談に関わっているが、この手の社労士、弁護士、労務コンサルが絡んだ悪質な事件は後を絶たない」としている。「ブラック士業は、違法な労務管理の技術を経営者に手ほどきすることで、ブラック企業を支えている。このような『専門家』は、『ブラック企業』とともに発展してきた。その背景には、違法なことでもまかり通らせたいという『ブラック企業』の経営者の思惑がある」と、ブラック企業の経営者との関係性を問題視している。

社会保険労務士はどれくらいいるのか?

ブラック社労士の表面化には、どのような背景があったのだろうか。今野氏は「社労士は急激に合格者数が増えている一方で、通常の保険管理の業務などは増えていない」とする。社会保険労務士全体の数を見てみると、2015年7月末時点の人数は全国で3万9653人、その内訳は、開業2万3404人、法人社員1411人、勤務等が1万4838人だ。試験の合格者数は、2012年には3650人(合格率7.0%)、13年は2666人(5.4%)、14年は4156人(9.3%)と増えているかとおもいきや、15年は1051人(2.6%)と減っている。

そもそも社労士の主な業務としては、労働社会保険手続業務、労務管理の相談指導業務、年金相談業務、紛争解決手続代理業務、補佐人の業務などが挙げられる。社労士の数とこれらの業務の量が釣り合わなくなったことにより、本道から脇道に逸れてしまう社労士が出てきてしまったということなのか。

ブラック社労士とブラック企業の関係性

今回の愛知県の社労士の問題では、「ブラック社労士」が「ブラック企業」と支え合う姿がイメージできる。それはまるで時代劇の越後屋と悪代官のような関係だが、ブラック社労士と呼ばれる人たちは、どの時点でブラック化してしまったのか。なぜ今目立ってきているのか。

ブラック社労士が生まれた背景として、今野氏は「社労士は急激に合格者数が増えている一方で、通常の保険管理の業務などは増えていない」ことを挙げている。「まともに新しいビジネスを行っている社労士もいる一方で、『紛争で儲ける』いかがわしいビジネスモデルを構築する新手も増えてきた」と指摘している。

ほとんどの社労士は真面目に業務に取り組んでいることだろう。しかし、そのうちの一握りが、「労使紛争」への介入を新たなビジネスチャンスと見てブラック企業へとすり寄っているのだという。

昔から「追い出し部屋」や「リストラマニュアル」はあった

ファイナンシャルプランナーの中嶋よしふみ氏は、『ブラック社労士が必要とされる理由。』の記事中で「ブラック社労士と同じようなモノはとっくの昔から存在し、散々報道もされている。大手企業ではそれが追い出し部屋であり、外資系企業ではリストラマニュアルだ」としている。

さらに「追い出し部屋もリストラマニュアルも問題のある仕組みである事は間違いない。しかし、これらは問題の『原因』ではなく『結果』だ。根っこには解雇が難しいという日本の法律・判例が原因として横たわっている」と分析する。

今回の社労士がなぜ一線を越えた発言を続けたのかは分からない。だが同じタイプの「ブラック社労士」が増えていくことは社会にとって悪でしかない。社労士数と業務量のバランス、雇用問題など様々な原因がひずみを作り出し、一部の社労士たちは気づかないうちに業務の方向性を見失ってしまう。そうした「ブラック社労士」たちの行動を正す取り組みは、業界を挙げてすぐに行うべきだろう。(ZUU online 編集部)

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