数々の雑誌で編集長を務めてきた花田紀凱(かずよし)氏が出版社ワックから飛鳥新社に移籍すると報じられている。花田氏が編集長を務める保守系論壇誌『WiLL』の編集部6人も同時に移籍するというが、果たしてこうした「チームごとの移籍」はアリなのだろうか。また実際に起きていることなのだろうか。
あの経済評論家も2度経験した「集団転職」
今回報じられている事実を整理すると、花田氏は3月26日発売の5月号を最後に3月で退職。飛鳥新社で同誌の路線を引き継いだ雑誌を、6人の部員とともに作るとのことだ。ワックも『WiLL』については新しい編集長をたてて継続する方針という。
出版業界では花田氏のようなカリスマ編集長がキャラとして立ち、その下に一枚岩のチームができてうまくプロジェクトが回るという形は珍しくない。ことに「雑誌は編集長のもの」と言われ、その性格と主張が媒体の特徴のみならず、仕事の進め方にも現れやすい。メンバーが「いいチームだ」と感じられるようなら、「このボスの下で継続して働きたい」という気持ちが生まれてもおかしくない。それは別の言い方をすれば「他の人の下はダメだ」という気持ちだ。
こうした状況は「雑誌」「マスコミ」だから生まれたのだろうか? 実際はそうでもないようだ。
経済評論家の山崎元氏は、SMAP独立騒動の際に受けたインタビューで金融業界やITなど技術系企業では“集団転職”の事例があることを指摘している。自身も2度ほど集団での転職をした経験があることにも触れ、そのメリットとして「同じ業界なら会社が変わっても仕事は大きく変わらない」「受け入れる側も、気心がしれたチームまるごとなら即戦力として期待できる」ことを挙げている。その一方で、難しい点として「移籍するチームの意思統一と情報管理」を挙げ、事前に情報が漏れて妨害・切り崩しにあう可能性にも言及している。
「はからずも集団転職することになる」ことも
「いま所属している部課のメンバーと集団転職なんてあり得ない」と思っている人もいるかもしれないが、集団転職を余儀なくされることもある。それはM&Aだ。会社ごと買収されるM&Aはまさに集団転職の一種だ。
経営競争基盤の冨山和彦氏も著書『IGPI流セルフマネジメントのリアル・ノウハウ』で、「個別に転職活動するよりも、集団転職でまとめて面倒を見てもらったほうが、売られる側も有利になる」と利点を挙げている。「自分は関係ない」と思っていてもまきこまれる可能性はあるのだ。
またいずれ独立しようと考えている人には、「部課を引き連れて独立できるか」という視点にもつながるだろう。
法律問題を扱ったあるサイトでは、「部下を引き抜いて一緒に転職しても問題ないか」という質問が寄せられている。回答者である弁護士は、憲法で「職業選択の自由」は認められているとしながらも、「従業員は会社(使用者)と雇用契約を締結しており、契約上の債務を忠実に履行し、使用者の利益を不当に侵害してはいけない」とした上で、もしこの義務に違反した結果、会社に損害を与えてしまうと、賠償すべき責任を負う必要が生じることもあると指摘している。
チームで移った先も同じ業界のはず。たとえ法律や規約に違反しなくても、悪評がたってしまったらせっかくのいいチームも台無し。移籍前ほどのパフォーマンスが出せなくなっては意味がない。評判や情報の伝わり方にこそ意識を向ける必要がありそうだ。(ZUU online編集部)
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