究極の金融緩和策だが「副作用」も計り知れない ?

フリードマン氏は、政府が十分な紙幣を印刷してヘリコプターからばらまくような金融政策を行えば、必ずやデフレから脱却してインフレとなり、景気は上向くはずだと主張した。実際、最近はヘリコプターマネーを推奨するエコノミストも現れている。FSA (英金融サービス機構) 長官だったエコノミストのアデア・ターナー氏も著書「債務と悪魔のはざまで」 (2015年) で、ヘリコプターマネーを推奨している。以下、ヘリコプターマネー推奨派の主張をみていこう。

ヘリコプターマネーと通常のQEとの違いは、簡単にいえば前者は政府の財政負担にならないということだ。中央銀行の買い切りや無期限の償還などによって、政府ははじめて無制限に国債を発行できる。

現在のアベノミクスのQEでは年間80兆円の国債を買い取り、政府は日銀に利息を支払い、そう遠くない将来には国債の元本を償還しなければならない。

ところが、ヘリコプターマネーは中央銀行が無制限に政府の国債を買い取るもので、返済も期限がない。まさに「債務」を貨幣にしてばらまいてしまおうという政策だ。政府は日銀が引き受けてくれた国債によって莫大なマネ―を得て、まさにヘリコプターからお金をばらまくように市中のあらゆる部分に潤沢に資金を提供することになる。たとえば、ある日突然、政府から1軒当たり30万円分のプリペイドカードが送られてくる。有効期間は1年だが、店舗などあらゆる場所で使うことができるため、その資金で好きな物を買ったり、美味しい物を食べたり、旅行に行ったりすることが可能になる。

景気は良くなり、インフレにはなるがコントロールできないこともない。実際に、米国は第2次世界大戦時の戦費調達のために、FRBが国債利回り2.5%を超えないように配慮しつつ、国債の大半を買い切って資金を提供した。FRBの債券保有高は開戦以前に比較して10倍近くにまで膨らんだものの、極端なインフレなどの後遺症はなかった。1929年の大恐慌以降の景気低迷を、米国は第2次世界大戦ではじめて克服したともいわれている。日本でも、1931年に発足した犬養毅内閣の高橋是清蔵相が、国債の日銀引き受けによる財政拡張政策を断行し、金本位制からの離脱や円切り下げの政策と合わせて、世界に先駆けて景気回復、デフレ脱却を実現させている。これが、ヘリコプターマネー推奨派の考えだ。

ヘリコプターマネー反対論の主張とは ?

一方、ヘリコプターマネーの実行は1920年代にドイツで起きたような「ハイパーインフレ」を招くとする考え方も根強い。国債の金利を暴騰させて、通貨を暴落させる。食料とエネルギーの大半を輸入に頼る日本のような国家は、あっという間に円安が暴走して輸入物価の急騰を招き、ハイパーインフレを引き起こすことに警鐘を鳴らしているわけだ。日本も、対中戦争に突入した30年代後半以降は、軍部の暴走を財政面で抑えることができなくなってしまった。そのまま太平洋戦争に突入し、45年の敗戦直後、年間500倍というハイパーインフレを経験しているという論理展開で反対されることが多い。暴走し始めたインフレを止める手段はそうそうあるものではない。1990年代に始まったジンバブエのハイパーインフレは、最終的には自国の通貨を捨てて米ドルを自国通貨とすることで乗り切らざるを得なかった。ハイパーインフレになれば、少なくとも企業が保有する資産も含めて、国民の金融資産の大半は紙くずと化すという考えだ。