約40年ぶりに相続法が大きく変わる。2018年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、「相続法」と呼ばれる相続についての規定が大幅に改正された。1980年以来となる大改正の中でも注目すべきなのが、新設された「配偶者居住権」だ。

これまでは、自宅の土地・建物も他の資産と同様に扱われ、もし、自宅を相続できなければ、夫を亡くした妻が家を出なくてはならないケースもあったが、今後は、遺された配偶者に対し自宅にそのまま住み続ける権利が認められる。この「配偶者居住権」の内容と、創設の背景やメリットなどについて紹介したい。

従来と何が変わるのか ? 創設の背景

民法大改正,相続,配偶者居住権
(写真=Sensay / Shutterstock.com)

「配偶者居住権」の創設には、遺された配偶者の居住の権利を保護するという目的がある。その背景として、社会の高齢化が進むなか、相続時における配偶者の年齢も高齢化が進んでいるという状況があり、遺された配偶者の生活に配慮が必要だとの観点から議論が進められてきた。

従来は、たとえば夫が死亡して相続人が同居の妻と別居の子であった場合、遺言書がなければ自宅を含めた財産が遺産分割の対象となり、誰が相続するかを協議によって決めることになる。妻が自宅を相続し、金融資産などのほかの財産は子が相続する、あるいは今後の生活資金の確保のために金融資産も妻が相続する、といった分割方法が考えられる。

しかし、母子関係が良好ではないなど、分割方法に子が納得しない場合には、妻が自宅を相続し生活基盤を確保できたとしても、子が現金の相続を求めているために妻の生活資金が確保できない、また、遺留分を主張する子に代償金を支払うために自宅を売却せざるを得ない、というケースも考えられる。あるいは自宅を第三者に遺贈するという内容の遺言があった場合や、債務などが多く相続放棄した場合などにも、妻は自宅に住むことができなくなってしまう。

遺族となった配偶者がこのような不利益を被らないよう、配偶者の居住の権利を明確にしたのが、今回創設された「配偶者居住権」だ。

配偶者居住権の内容、メリットは ?

では配偶者居住権とはどのような権利なのだろうか。今回の改正では、居住権を短期と長期で保護する方策が創設された。

●配偶者の居住権を短期的に保護するための方策 (配偶者短期居住権)

配偶者、主に夫が亡くなった場合の妻が該当するが、相続開始時に被相続人 (夫) の建物に無償で住んでいた場合、以下の期間は建物を無償で使用する権利 (配偶者短期居住権) を得る。

(1) 配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは、居住建物の帰属が確定する日までの間 (ただし最低6ヶ月間は保障) 。
(2) 居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6ヶ月。

まず、 (1) のケースは、自宅が遺産分割の対象となり誰が自宅を相続するか決まっていないケースが想定される。遺産分割協議が終了し自宅を誰が相続するかが決まるまでの間、最低6ヶ月間は居住権が認められ、協議の内容によってそのまま住み続ける、あるいは新たな居住地へ移り住むことになる。 (2) は、第三者に遺贈する内容の遺言があった場合など、自宅を明け渡さなければならないケースが想定される。このような場合にも、新たな自宅の所有者から消滅請求 (立ち退き) を受けてから6ヶ月間は住み続ける権利が認められ、その間に新居を探すことができる。

つまり、これまでであれば、すぐに立ち退きが求められるような状況であっても、最低6ヶ月間はそのまま住み続けて新居を探すことができるようになるということだ。

●配偶者の居住権を長期的に保護するための方策 (配偶者居住権)

こちらは、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認め、配偶者の生活基盤・生活資金等を保護する内容となっている。この居住権は、 (1) 遺産分割、 (2) 被相続人の遺言等によって配偶者に取得させることができることになる。

たとえば相続人が妻と子の2人、相続財産が自宅の評価額3,000万円、現金2,000万円だった場合、妻が自宅を相続し子の遺留分を侵害しない分割方法をとると、現金は妻が750万円、子が1,250万円を相続することになる。しかし、この分割方法では妻の手元に残る現金が少なく、相続後の生活が不安定になることも想定される。

そこで今回の改正では、自宅の相続財産としての価値を、建物の耐用年数・築年数、配偶者の平均余命などを考慮した「負担付所有権」と配偶者が自宅に住む権利の価値である「配偶者居住権」に分割できることにした。これによって上記のケースの場合、負担付所有権・配偶者居住権をそれぞれ1,500万円とすると、妻が居住権1,500万円と現金2,000万円、子が所有権1,500万円という分割方法も可能となり、居住権とともに現金も取得でき、相続後の生活基盤と生活資金が確保できるというメリットがある。

一方で、相続財産としての「所有権」「居住権」の評価額が、建物の耐用年数・築年数や配偶者の平均余命などを考慮して決定されるため、個別の情況によって評価額が変わってくる。そのため、遺産分割時の各相続人の取得財産額や相続税額にも影響が出てくることが考えられる。

気になる施行日はいつ ?

配偶者の新たな権利である配偶者居住権と配偶者短期居住権だが、2020年4月1日の施行が予定されている。このため、実際に制度が導入された後、評価方法などがどのようになっていくか、注視していく必要がある。

いずれにせよ、制度が実施されると配偶者の居住の権利が保護される一方で、ほかの相続人の権利が縮小されることになるため、遺産分割の際の金銭的、心情的な争いの種になるおそれもある。こうした点にも配慮したい。

その他の制度の変更は

民法改正によって、新たに配偶者短期居住権と配偶者居住権が創設されることになったが、相続に関しては、ほかにも何点か改正点がある。

ひとつは、「特別の寄与」の新設で、相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護などを行った場合には、相続人に対して金銭の請求ができるようになる (2019年7月1日施行) 。

また、遺言制度についても見直しが行われた。従来は自筆証書遺言の場合には財産目録についても自書が必要だったが、財産目録についてはパソコンに入力したものを印刷したり、通帳のコピーを添付したりして作成することも可能となった (2019年1月13日施行) 。さらに遺言執行者の権限についても従来よりも明確化され、遺言書に記された遺言者の遺志がより忠実に実行されることになる (2019年7月1日施行) 。

国の運用方針に注視を

民法改正にともなう相続の法律上の変更点について、配偶者居住権を中心に紹介した。上述してきたように、改正が行われたばかりで、実際にどのように運用されていくのかはっきりしない部分もある。相続対策が必要な方は、どうか今後の国の議論の動向に注目し、最新の情報を相続対策に役立てていただきたい。(提供:大和ネクスト銀行

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