いま、あなたが読んでいる本は何でしょうか。
小説ですか、それともビジネス書でしょうか。
ちなみに、その本は面白いですか?
面白くない本は途中でやめた方がいい
もし、今読んでいる本が1500円で買った本だったとします。半分くらい読みましたが、ぜんぜん面白くなかったとき、あなたはどうしますか?
A:もう半分読んだのだから、我慢して最後まで読む
B:たぶん残り半分を読んでも面白くないと予想されるので、別の本を読むことにする
どちらが、良い判断だと思いますか。
1500円の本は、もう買ってしまったので、絶対に戻ってこないお金です。回収不能ですね。その本を半分読むのに、すでに1日かかったとしても、その時間は戻ってきません。
この回収が不可能な費用を、経済学で「サンクコスト」と言います。もし、面白くないと分かっていながら、最後まで読もうとすると、さらに1日の時間を費やすことになります。半面、ここで残り半分を読むのを止めてしまえば、その時間を違うことに活用することができます。もしかすると、もっと面白い有益な本と出会えるかもしれません。
残り半分を読む時間を他のことに使える。これを経済学で「機会費用」と言います。我慢をして最後まで読んでしまうというのは、新たな「機会費用」を失ってしまうということです。一方で、途中でやめるという選択をすると、新たな「機会費用」を生むことになります。
つまり、先の質問ではBが賢い選択ということになります。
賢い選択、判断をするために
「サンクコスト」と「機会費用」について、公共事業を例にとって説明しましょう。
たとえばダム建設です。農業用水、工業用水などを確保するために、長年にわたって進められてきたダム建設。ところが、水の需要が減って計画そのものが無意味になったにもかかわらず、なかなか途中でやめられないという話はよくあります。
ダム建設のための用地買収、周辺の道路整備など長い年月にわたって投じられた資金は数10億円に達します。ここで計画を中止すると、いままで使った莫大な資金が回収不能となります。でも、このまま計画を進めれば、あと数億で工事は完成する見通しです。あなたならどうしますか?
この場合、ダム建設に投じた回収不能な数10億円が、サンクコストです。さらに工事を続けると数億の機会費用も喪失します。サンクコストに捕らわれると、さらなる機会費用まで失います。こういった「選択」「判断」をする時に考えなくていい費用が「サンクコスト」であり、考えるべき費用は「機会費用」なのです。賢明な判断をするためにも、サンクコストと機会費用の概念を理解することは、とても重要です。
恋愛にもサンクコストと機会費用があります
恋愛も同じです。なんとなく別れたいと思っていても、それまでに費やした時間とお金がもったいないとの理由で、関係を続けていませんか?
男性にとっては、今まで使ったデート代○万円とプレゼント代○万円は、すべて「サンクコスト」ですね。しかし、現実問題としてトキメキを感じなくなった。まして結婚をしたい女性でもない。そろそろ潮時かなと思いながらも、ズルズルと続いていて「機会費用」も失っている状態です。
女性の場合はどうかというと、「もう3年も付き合っているし……」「もう5年も付き合っている……」。これは時間という投資を行っていることになります。もう3年間、5年間の時間は回収不可能です。
気がつくと、自分もアラサーという状態ーー「サンクコスト」の考え方は、恋愛にも当てはまります。ここは、思い切って恋愛の「損切り」をして、新たな「機会費用」を期待すべき局面かもしれません。
得した喜びよりも、損失の悲しみは2.5倍大きい
相場の有名な格言に「見切り千両、損切り万両」があります。含み損をかかえた株を、損失の少ないうちに見切りを付けるのは、千両の価値がある。損失を拡大させないために、ある程度の損を覚悟で売ってしまうのは、万両の価値があるという格言です。
自分自身の経験からも、また株が上がって損を取り戻せるのではと思い、ついつい損切りを躊躇して失敗したことは何度もあります。
「株」も「恋愛」も、同じように損切りというのは難しいものですね。人間は、得をした喜びよりも、損失をだしたときの悲しみの方が2.5倍も強く感じてしまうといいます。損失をすることを極端に嫌うがために、合理的な判断ができなくなってしまうのです。
しかし、だからといって、いつまでも「サンクコスト」に捕らわれていては、正しい判断ができません。ここは、思い切って恋愛の損切り、人生の損切りをやってみませんか? 新たな機会費用が生まれる可能性があります。
長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。