年間60回以上、30年近く個人投資家さん向けの講演をさせて頂いていますが、これまで成功した投資家と、残念な結果に終わる投資家の姿から多くを学ばせていただきました。今回は、そうした経験の中から成功されるタイプの投資家さんの特徴を共有したいと思います。
成功する投資家は「耳がいい」
成功される投資家さんは概して「耳がいい」といえます。耳がいいとは、つまり「聞く力」です。まず、相手の話をよく聞く。相手が何をいわんとしているのか、聞き分ける。相手が信用のおける人なのか、そうではないのか、その判断も大切ですね。
相手が大切な話を必ずしも大きな声で、しかも何度も繰り返して話してくれるわけではありません。現実では、むしろ小声で重大な話をする場合も少なくありません。
耳がいい投資家さんは、外からもたらされる情報を注意深く、耳ダンボでよく聞いています。
そして、相手の言葉の強弱からどの点が重要なポイントなのかを掴んでいます。
リーマンショックの始まりだった2007年8月、BNPパリバ傘下企業がサブプライムローン関連の支払いを凍結する事態に陥った時、世界情勢に詳しいAさんは「今年の米国市場は正念場」とある席で話しました。
それを聞いたBさんは別の会合でその話をしました。するとそれを聞いた個人投資家Cさんは「これは大変なことになる」とすぐ手持ち株を全額売却しました。この時、他の個人投資家は「対岸の火事」という認識でした。つまり、同じ話を聞いてもすぐ行動できる人とそうでない人がいるのです。
日ごろから危機管理意識を強く持っていれば、自分のアンテナにピンとくる話がキャッチできるのですね。詳しい知識がなくても、気になることはマークして、後追いでも調べる癖を持てば、「聞く力」を何倍にも補強できると思います。
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成功する投資家は「バイアス心理を排除」して合理的に判断する
講演で「値上がりした株は利益確定をしておきましょう。そして、又、安くなったら買いましょう」というようなお話をすると「今、暴落するとおっしゃいましたが」というように話をかなり脚色、曲解して質問する人がいます。
或いは「株価は概ね上昇方向かと思います」というようなお話をすると「日経平均は暴騰するのですね」という具合です。
なんでも極端に自分自身のイメージに塗り替えてしまう傾向のある人は話をさらに脚色して人に伝播させていきます。「◯◯さんの講演ではこう言っていた」という具合です。
その根底には「暴落したらいいのにな」「暴騰したらいいのにな」という強い願望があり、それを誰かの発言によって補強したい心理があるといえます。
しかし、こうした偏った心理では相場の流れを冷静に判断することは難しいでしょう。成功する投資家はできるだけ、事実を合理的に判断しようとしています。
投資家のDさんは仲間のEさんから「××銘柄を買っておけ。すごい材料があるらしい」と盛んに言われ、つい大量に買ってしまいました。しかし、同じように薦められたFさんはその話には乗りませんでした。「そういう話が個人投資家に漏れるはずがない」と思ったからでした。結果はFさんの判断どおり、相当の月日がたっても「××銘柄」はだらだら下がり続けるばかり。
相手の話に過度の期待を抱くのも「バイアス心理(=偏った心)」であり、他人を巻き込んで話を大きくしたいのもバイアス心理です。偏らず、合理的に判断する投資家が成功します。
成功する投資家は「自分が勝てる投資」を実践する
デイトレで大成功し「億トレ」といわれる人達のセミナーには老若男女がワッと押し寄せ熱心にその手法を学ぼうとしています。しかし、実績をデータで示している嘘のない億トレのセミナーでは突拍子もない手法が紹介されているわけではありません。彼らはごく基本的な勝ちパターンをブレずに日々実践して成功しているのです。
成功している投資家は自分の勝ちパターンを知っています。そして、その方法をコツコツ実践し、利益を積み上げているのです。
年間1億円を株式投資で稼ぎ続けて10年で10億円を達成したGさんは「勝ちパターン以外のことをして負けた時はあえて自分を罰します」というくらい、勝ちパターンを死守しています。確かに儲かった時のやり方を続けることができたなら、そう大きく間違うことはないはずです。
あれこれ目移りして手を出すと、失敗確率も増し、負け込みます。自分が勝ちやすい銘柄を選ぶことも大切です。
投資家Hさんは特定の銀行株しか売買対象にしません。その銘柄の値上がりパターン、値下りパターンを徹底的に研究して、関連性の深い指標を常時観察しています。別の銘柄も試しましたが、リターンを生み出すのに要する時間が自分の感覚と合わず、うまくいきませんでした。それが分かってからはその銘柄には手出しせず、得意銘柄だけで利益確定をしています。
投資家Jさんは日本株より米国株が合うと感じてからはもっぱら米国株専門です。為替が円高に振れた時はチャンスとばかりに米国株を購入。米国株も時に大きく値下がりしますが、為替と世界景気を敏感に反映し過ぎる日本株よりはパフォーマンスがいいそうです。
どんな銘柄でどんなふうに売買した時が一番自分にリターンをもたらしたか、思い出し、カスタマイズしたいですね。
成功する投資家は「投資目的が明確」
暇つぶしに何となく投資していてはあてどない旅を続ける船のようで、どんな場所に漂流するかわかりません。投資家のKさんはまず、「2年後に250万円の投下予算の2割儲けて元金ともども回収する」という具合に期間と目標を定めて、逆算方式で銘柄を選んでいます。
というのも2年毎に旅行費用50万円を株の儲けから捻出しているからです。その旅費を得るのにもっともよさそうな銘柄選びを真剣にするといいます。Kさんは個人投資家向けIRセミナーや大規模なイベントに出かけていき、B2Bで消費者にはあまり知られていない会社の中から将来性のある縁の下の力持ちビジネスをしているタイプを選びだし、時間分散と価格分散で買うそうです。
B2B企業がIRに熱心に取り組んだ結果、個人投資家層が拡大し、配当や優待制度の充実で株価が健闘する例も多いものです。Kさんのように投資目的をしっかり定めて銘柄と買い値分散を図るのもうまくいく投資の一つです。
成功する投資家は「余力を確保した投資」ができる
株価が思わぬ安値を付けた時(たとえば移動平均かい離率が-10~14%前後、下乖離したようなとき)を狙って買うメリハリのある投資を実行するには、余力が必要です。
日ごろから、そうした時こそ買える余力を残しておきたいですね。個人投資家が株で資産を失うもっとも大きな原因は信用取引の余力管理が不十分だからです。現物で優良株の場合でも、思いがけない安値に見舞われることがありますが、現物を担保に入れて行う信用取引では、現物価格の八掛け×3倍のお金を証券会社から借りて、投資することになります。下げ相場では担保の現物価格も大幅下げに見舞われます。すると信用取引の土台の担保不足が起こります。この追証が入れられない場合、信用取引は強制解除に見舞われます。その際の損金と現物担保売却代金で差っ引きゼロになるような状態で株に投じた資金すべてを失うわけです。
従って、容易な気持ちで信用取引を限度額いっぱいに買わないことが大切ですが、たいてい、現物塩漬け、信用も塩漬け、そこに大きな下げが来てすべてをなくすのがよくあるパターンです。成功する投資には余力が必要。のべつまくなしに信用口座の枠を目一杯使わないこと。
そして、余力をいかに次のチャンスに生かせるか? それを考え、実行するのが成功する投資です。
是非、投資の参考にしてくださいね。
木村佳子(きむら・よしこ)
生活経済情報研究所 ㈱ビューズ代表、日本取引所JPX/女性講座グランドマスター。個人の生活経済、金融リテラシー、ストラテジーをテーマに民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催するセミナー等での基調講演を務めるかたわら、NPO法人日本IRプランナーズ協会理事、日本チャート分析家協会、一般社団法人くらしとしごと生活者フォーラム代表理事などの要職も務める。一級FP技能士(国家資格)。日本ファイナンシャルプランナーズ協会CFP。公的面では各省庁の審議会委員、専門委員などを務める。
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