中国人,ブランド信仰
(写真=PIXTA)

中国人のブランド信仰は2つの要素から成っている。1つは「威信財」としての価値。自己主張と交渉の無限連鎖で構成される中国社会では、威信財を身に纏うことは、交渉の大きなアドバンテージになる。アイテムは多ければ多いほどよい。高級車はその典型である。

2つめは、本音では中国製品を信用できないということである。認知されたブランドなら、だまされることはない、という心理である。

そんな中国で、今どんなブランドが好まれているのか。国内ブランドの浸透ぶりはどうか。異種格闘技戦のように見えるが、スマホと婦人服という新と旧の商品群を取り上げて、これからを展望してみよう。

スマートフォンのブランド iPhone信仰は終わり?

最も速足で様相が変わる市場である。10年前の携帯電話市場と現在のスマホ市場ではプレーヤーが全く入れ替わった。かつて中国の携帯市場を席捲していたのは諾基亜(ノキア)、第2位は魔托羅拉(モトローラ)だった。

SONYやの日本勢Sharpも戦っていた。はっきりは覚えてはいないが当時の中国ブランドと言えばレノボくらいだ。トップブランドのノキアは、家楽福(カラフール)の大きな携帯売場の半分を占領していたものだ。

それが2015年中国市場スマホの販売シェアを見ると1位 華為(ファーウェイ)、2位 アップル、3位 小米(シャオミ)であった。

すでにネット上では、この3社があれば他のメーカーはいらないとの意見さえ出ている。さらに2016年第一四半期の世界シェアトップ10に、ファーウェイ、シャオミの他、レノボ、TCL、OPPO、BBK/VIVO、ZTEの7ブランドがランクインした。すでに中国市場を突き抜けて、世界市場を見据えている。

メーカー別ではサムスン、アップルの2社が突き抜けているが、国別ではすでに中国が1位である。

ここ5年のスマホ時代における変化も激しく、iPhone信仰時代とそれ以後に2分できる。ここ1年でiPhone信仰が急速に衰えた。2年前までは、日本でiPhoneはいくらで買えるのか、今度買ってきてくれなどの問い合わせや依頼を何回受けたことやら分からない。それがピタッと止まった。無理せずともファーウェイやシャオミがあるではないかという空気が広まった。

とにかく、これら国内ブランドの躍進は欧米指向の強い中国では実に稀なケースである。欧米勢がアップルのみで孤軍だったこと、中国勢は生産基地の広東省にアクセスし易いこと、などが台頭理由として挙げられる。何よりも欧米勢の伝統がないことが大きい。

人気のブランドトップ10は?

中国女性にはTPOに即した服装を選ぶという考えはなかった。特に60歳以上の人は、よそ行きと普段着の区別がない。結婚式や葬儀などフォーマルな場でも常日頃と何も変わらない。

北京・上海・深セン以外の大中都市で、プラダ、グッチ、ルイ・ヴィトン、バーバリー、などのNBのショップが展開し始めたのは2003~2005年頃である。そしてZARA、H&M、ユニクロ、無印良品の中国上陸は2005~2007年頃で、本格展開は2009年以降だ。これらの外資系ショップは、中国女性のファッションに大きな影響を与えた。

しかし60歳以上の年配の女性は両方とも蚊帳の外である。40代~50代では、所属のクラスによってNBの影響を受けている。もろに影響を受けたのは「80后」(1980年代生まれ)より後ろの世代だ。とくにこの80后以前と以後の世代では、別の世界を見ていて、ファッションセンスは全く異なっている。

中国人の好きなブランドという場合、どちらの中国人か?を考えなければならない。ネット上に2015年中国奢侈品ブランド人気トップ10、という資料があった。

(1)ルイ・ヴィトン、(2)エルメス、(3)グッチ、(4)プラダ、(5)シャネル、(6)ロレックス、(7)カルティエ、(8)ヘネシー、(9)バーバリー、(10)ティファニーとなっている。

これは40~50代の成金夫人イメージである。高価なものを身にまとっていてもセンスはお寒い。

婦人服のブランド「例外」が人気の理由

「80后」はどうだろうか。外資系のファッション専門店、香港系専門店は誰しも利用したことがあるだろう。中国系ブランドは苦戦している。

専門店が育つ前に、ここ5年のスマホ普及により、ネット通販に移行してしまった感が強い。流行や外出とのマッチング、つまりデザインが商品選びのポイントで、ブランドではない。予算以内なら即購入する。各商品の売上数表示も参考になる。気に入らなければ返品できる。

婦人服では“例外(EXCEPTION)”というブランドが最も認知されている。それは国民的歌手にして習近平夫人・彭麗媛の愛用ブランドだからである。

2013年3月、主席のロシア訪問に同行した際、このブランドを着用したときのあざやかな印象が話題となった。しかしネット辞書の「百度百家」で検索すると、この出来事以降、同社にトピックはない。”例外”の存在となるチャンスを生かし切れていないようだ。しかしショッピングセンターの関係者に聞くと、中国系婦人服ブランドでは、売上トップクラスである。

中国系ブランドの生育状況は、既存のあらゆる商品分野において芳しくない。消費者の欧米指向も変わっていない。スマホはまったく歴史のない商品だからこそ、中国ブランドがシェアを獲得できた“例外”だろう。中国ブランドの育成とは、新商品分野開発とセットでなければ難しいのだろう。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)