日本の空き家問題は深刻です。国の最新調査によると、居住者のいない住宅は約800万戸にのぼります。「長期不在、取り壊し予定」の本当の意味での空き家だけでも300万戸以上という現実を考えると、もはや社会問題といえるでしょう。民間の知恵が必要な時期だといえます。
長期不在、取り壊し予定の空き家数は20年で倍増
空き家は「賃貸用、売却用」「長期不在、取り壊し予定など」「別荘など二次的住宅」というカテゴリーに分けて調べられています。「住宅・土地総合調査」では、1958年から5年毎に調査を行っています。その最新版である2013年の調査結果では、空き家のうち、賃貸用、売却用が460万戸、長期不在、取り壊し予定などが318万戸、別荘など二次的住宅が41万戸でした。
空き家数は20年前の1993年(448万戸)と比較すると1.8倍です。賃貸用、売却用が当時の1.7倍なのに対して、長期不在、取り壊し予定などは2.1倍で、空き家数と空き家率を押し上げた主因になっています。なお、20年前の別荘など二次的住宅は37万戸で、現在とほとんど変わりません。
田舎のみならず都市圏の問題に
都道府県別の空き家率は、山梨県(22.0%)、長野県(19.8%)などが高いのですが、これは別荘が多いことが主な要因で、空き家問題の本質から離れています。
そこで、長期不在、取り壊し予定などの318万戸に絞ってみてみると、鹿児島県11.0%、高知県10.6%、和歌山県10.1%がワースト3となり、それについで、徳島、香川、島根、愛媛、山口、三重、鳥取と、西日本の過疎県が続きます。しかし、空き家問題は「過疎地の問題」と簡単に片付ける訳にはいかないのです。
なぜなら、空き家率は、首都圏、近畿圏、名古屋圏の3大都市圏でも12.3%と全国平均(13.5%)と変わりなく、長期不在、取り壊し予定などの空き家がそのうち30.0%を占めているからです。
空き家問題の一つは住宅市場
空き家問題の一つは、賃貸用、売却用の空き家が460万戸あるのに、実際に流通している住宅はわずか51万戸しかないということです。(不動産流通を担う大手・中堅の住宅・不動産会社で組織する不動産流通経済協会の2013年度推計による)
不動産流通経済協会のデータは、住宅流通実態を推し量る貴重なデータですが、住宅ストックは把握できていません。上述の国の調査が唯一のデータなのです。常に賃貸借されている住宅以外に、賃貸用、売却用の空き家の10分の1ほどしか流通していないというギャップは、中古住宅市場が適切ではないことの証でしょう。
ちなみにアメリカの中古住宅流通量は、日本の10倍(525万戸、2015年調査)です。「木造住宅を壊しては建てる日本」と「コンクリート住宅中心で、何度も住み替えるアメリカ」という文化的な違いだけでなく、新築中心に流通を作ってきた日本の業界の問題ともいえます。
なお、日本の住宅リフォーム市場は6.5兆円(住宅リフォーム・紛争処理支援センター、2011年推計)です。日本の住宅投資に占める割合は28%に過ぎず、イギリス(57%)、フランス(56%)、ドイツ(77%)など欧米に比べても小規模です。まだまだ伸びる余地はありそうです。
長期不在、取り壊し予定の住宅は「木造・不便・駅遠」
もう一つの空き家問題は、長期不在、取り壊し予定などの住宅にどのように対処するのかという、不動産市場では解決ができない社会問題という点です。
長期不在、取り壊し予定などの住宅318万戸のうち、木造戸建ては220万戸(69.2%)です。住宅全体に占める木造戸建て率(51.0%)よりも高く、うち80万戸は「腐朽、破損」に区分されています。また、敷地が幅4メートル未満の道路に接する住宅は143万戸(45.0%)、最寄りの交通機関までの距離が1キロ以上の住宅は203万戸(63.8%)です。
こうした「木造・接道の悪さ・駅遠」の悪条件の住宅は、防災性が低く、ゴミの不法投棄、風景の悪化など、管理水準低下に伴う様々な問題が起きています。
国は2015年11月に初めて空き家を抽出調査し、その結果を発表しました。所有者の55.6%が65歳以上、取得経緯は相続が56.4%、購入が37.4%で、長期不在、取り壊し予定の空き家は、建築時期の古いものほど相続物件が多いことがうかがえます。
国の対策と民間の対応
国は2015年5月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」を施行しました。全自治体の4分の1にあたる401自治体が、空き家条例を制定(2014年10月現在)するという深刻な事態に合わせ、市町村の対策の後押しが主ですが、税制面の対応も強化しています。
この特別措置法では、「倒壊など著しく保安上危険」「著しく衛生上有害」となる恐れのある状態や、「適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態」などを「特定空家等」と定義し、強制的措置を行えるようにしました。
最初は除却(解体)、修繕、立木竹の伐採などの助言、指導です。それでも改善しない場合は、猶予期限を付けて改善を勧告し、勧告対象になると、固定資産税の特例対象から外されます。いわばイエローカードが付き付けられます。そして、土地についての固定資産税は最大4.2倍になります。
もともと、家屋を取り壊して更地にすると、固定資産税が高くなってしまうという理由から、老朽住宅をそのままにしておく方法がとられていました。しかし、この特別措置法は、「アメ」ではなくて「ムチ」で誘導しようとしているようです。
勧告に従わないと猶予期限を付けて改善命令が出され、この時に意見を述べる機会が与えられます。猶予期限を過ぎても改善されなければ、市町村による強制対処もあります。改善に必要な費用は、所有者負担になります。
市町村の空き家対策が市場に与える影響
自治体の空き家対策のうち、長期不在、取り壊し予定などの住宅への対策は、中古住宅市場への影響はほとんどないでしょう。
一方、自治体によってはNPOとの共同作業、空き家コンシェルジュ、空き家バンクの活用などに取り組んでいます。活用事例はまだ少ないですが、塩漬けになっていた賃貸用、売却用不動産が流動性を持ち、リフォームなどの費用も発生します。国も旅館業法の緩和を行い、民泊ビジネスへの敷居を下げる取り組みも積極的に行っており、国内だけでなく海外からの観光客をターゲットとしたAirbnbのサービスの活用も期待されています。
空き家対策を経済発展につなげていくための取り組みは様々な形で行われています。今後、どのように市場が動いていくのか注目していきましょう。(提供: 不動産投資ジャーナル )
【関連記事】
・
平成28年度税制改正で規制が入る「不動産投資に関する消費税還付」とは?
・
日銀のマイナス金利が不動産投資に与える影響とは?
・
不動産投資の成否のカギは対象エリアでの賃料相場の把握
・
規制緩和でAirbnbでの空室運用が実現!?高稼働率の実現も夢ではない
・
ROIを自分で計算できるようになりましょう! 不動産投資の重要指標