日本は少子高齢化の進展から本格的な人口減少時代を迎えており、労働力人口も大幅に減少すると見込まれている。
「平成27年労働力需給の推計」(労働政策研究・研修機構)によると、2030年の労働力人口は、「ゼロ成長・労働参加現状シナリオ」では2014年の6,587万人から5,800万人へ787万人減少、「経済再生・労働参加進展シナリオ」では6,362万人へ225万人減少すると推計されている。確かに日本の将来の労働力人口の減少は疑う余地はないが、それは即ち労働力不足を意味するのだろうか。
2013年にオックスフォード大学のオズボーン氏等が発表した論文『雇用の未来(THE FUTURE OF EMPLOYMENT:HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION ?)』によると、今後10~20年程度で、アメリカの雇用者の約半分は、人工知能(AI)やコンピューターによって仕事が代替されるリスクが高いという。
そこには702の職種のうち消えてなくなる可能性の高い職業として銀行の融資担当者、訪問販売員、レジ係、建設機器のオペレーターなど、数多くの仕事がリストアップされている。
5月16日付のハフィントンポストには『人工知能の「弁護士アシスタント」生まれる』(執筆者:Ryan Takeshita)という記事が掲載されていた。
法律改正や新しい判例等に関する膨大な情報を人工知能が適切に弁護士に提供するシステムがアメリカの大手法律事務所に導入されたというのだ。従来のパラリーガル(弁護士助手)の仕事だが、この職業も前述の「消えてなくなる可能性の高い職業」のひとつとしてリストに挙がっており、今日の知的労働さえも消滅しないとは言い切れないのである。
ロボットがルーチン的な仕事しかできなかった時代から、AIやビッグデータを活用し知的な仕事を代替する時代が確実に迫っている。自動運転車の実用化も既に実証実験が始まり、やがてタクシーやトラック運転手の仕事を奪うかもしれない。その他にもサービス業や知的な通訳・エンジニアなども例外ではなく、日本の将来の労働力人口は確実に減少するものの不足するとは限らないだろう。
人口減少時代の経済成長のためには、人工知能やロボットによる労働の代替化は不可欠だ。しかし、それらが知的分野を含む社会の広い範囲におよぶと、雇用に就ける人が限定され、失業者が増加し、所得格差の拡大が一段と進むのではないか。
また、AIやロボットが人間の労働を代替できる分野が限られても、その代替によって雇用や所得を奪われる人たちの消費が低迷すれば他分野の雇用の減少につながることも懸念される。将来のAIとロボットによる労働代替化は、本当に人間がすべき「労働」とは何か、どのようにして全ての人が「所得」を確保するのかを改めて問うことになるだろう。
(*1)(参考) 研究員の眼 『 遠い“GDP600兆円"への道のり~消費者ニーズ把握と商品化が困難な時代 』 (2015年12月1日)
土堤内昭雄(どてうちあきお)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部
主任研究員
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