高度なIT技術を駆使して人材紹介サービスを行うアトラエが2016年6月15日に東証マザーズに新規上場する。5月13日に東京証券取引所の承認を受け、証券コードは6194に決まった。公開価格は6月7日に決定される予定だ。
同社は、人工知能(AI)やビッグデータ解析技術、ソーシャル・メディアを活用した最適な人材マッチング事業を行っており、「Human Resource(人材領域)」と「Technology(技術)」を掛けあわせた「HR Tech」の注目企業として投資家の人気を呼びそうだ。
高度なIT技術を駆使して人材マッチング アトラエの事業内容とは?
アトラエは、前述DODAを運営するインテリジェンス・グループの出身の新居佳英社長が2003年に設立、この一風変わった社名はスペイン語で「魅了する」の意だという。人生をより魅力あるものにする出会いの場を増やしたいとの思いが込められているのだろう。現在主力しているGreenは「人と企業」を結びつけ、新規事業のyentaは「人と人」の出会いの場を広げる。同社の人材データベース解析技術はさらに広がりを見せ、様々な分野で活用されそうだ。
日本の雇用市場は企業業績の向上に伴って拡大が続く。有効求人倍率は29ヶ月連続で1倍を超え、職を求める人より求人が多い状況が続いている。転職サービス会社「DODA(デューダ)」の転職求人倍率月次レポートでも、今年4月の求人数は1年前から4割の急増、08年調査開始以来の最高水準を17カ月連続で更新中という。転職希望者数も7割増と、求人増に伴って転職意欲が高まっているようだ。
このように活況な雇用市場でアトラエが狙うのは適材適所の人材紹介サービスだ。従来のサービスは「数打ちゃ当たる」式の物量指向で、採用が成立しても雇用者と採用者の少なくともいずれかが不満を感じるケースが多く、それを避けるためにヘッドハンターと呼ばれる専門スカウト会社に依頼すると高額な報酬を払わねばならなかった。ここに目を付けたのがアトラエだ。
求人メディア「Green」は緻密な求職活動データを蓄積
同社の成功報酬型求人メディア「Green」はAIとビッグデータ解析の技術を駆使して人材マッチングを図るプラットフォーム。求職者の履歴や、資格、実務経験などの基本情報はもちろん、どのような業種や会社、職種に興味をもち、実際に応募したか否か、どの採用ステップまで進んだかなど求職活動に関する緻密なデータを蓄積している。求人企業が望む条件を入力すると、AIが求職者のデータを解析して最適な人材を探し出す「レコメンドシステム」という仕組みだ。
求職者側もこれと同様で、自分の望まない企業や職種がリスト・アップされることが少なくなる。検索が行われる度に求人・求職のデータが蓄積されて検索精度が上がるため、採用に至る確率も高まる。実際、アトラエが経営管理指標として重視する書類選考通過率(選考通過件数/応募件数)は過去6期で6%強から26%に大きく向上している。
採用が確定すると同社は企業から成功報酬を受け取るが、その料金体系は東京なら1件当たり90万円、大阪は70万円など地域ごとに一律。求人広告の掲載期間や求人数、面接回数は全て無制限で、求人側は低コストで効率的に人材探しができる。とくに、特定の人材は欲しいが求人に必要な社内資源の乏しいベンチャー企業などにとっては非常に魅力的なシステムだ。Greenに掲載する約9割がIT・ウェブ関連企業で、今年3月時点で求人は7057名、ひと月に少なくとも1回利用したアクティブな求職者は1万5443名だったという。
業績は絶好調。売上高は昨年9月期までの4年間で2億6500万円から8億3800万円に3.2倍、年率にして33%の高成長が続き、経常利益は2.3倍の9400万円になっている。今期も3月中間期で売上高が5億7200万円、経常利益は1億4900万円と前期水準に対しそれぞれ7割近く、1.6倍と、利益は既に前期1年間を大きく上回っている。この急成長をけん引しているのは売上高のほぼ100%を占めるGreenだが、有望な新規事業も育ちつつある。
潜在需要を発掘する「TalentBase」、人をつなぐ「yenta」
そのひとつが「TalentBase(タレントベース)」。優秀な人材を発掘するという意味で同社はこれをタレントマイニングサービスと呼ぶ。データ分析に強みを持つブレインパッド との協業による人工知能とビッグデータを活用する技術で、昨年2月に導入した。Facebook などのSNSの登録情報をもとに会員の仕事内容や交友関係、スキルを定量的にスコアリングするという。
今年3月時点で175万人の会員とそのSNS上の知人400万人のプロフィールや行動を分析する。同社はこれを企業の人材採用ツールとして売り込む。Greenが実際の求職活動者を対象とするのに対し、TalentBaseでは転職潜在層から人材を発掘できるため、求人企業の選択肢は大きく広がる。料金は回数や利用頻度に関わらず月10万円の定額で提供している。
もうひとつの新規事業は今年1月にリリースした「yenta(イェンタ)」。ビジネスパーソンに出会いの機会を提供するスマホアプリでTalentBaseの技術を応用した。完全審査制だが簡単なプロフィールを入力すれば登録できるという。会員が興味を持ちそうな人物を毎日10名レコメンドし、希望すればマッチング結果が届き、会う約束もできる。現在は無料で提供するが、将来は課金する考えもあるようだ。現在は会員間の情報交換や人脈形成などの利用を想定しているが、いずれTalentBaseとの連携もあるかもしれない。
「HR Tech(Human Resource ☓ Technology)」で国内NO.1へ!
同社は今後、「Human Resource(人的資源)x Technology」の領域で国内No.1を目指し、世界進出することも視野に入れている。今回の資金調達をテコに、そのビジョンに掲げる「日本を代表するグローバルカンパニーとして 世界中の人々から必要とされる存在」への一歩となることが期待されるだろう。
AIやビッグデータ解析、SNSデータを組み合わせた採用支援サービスはLinkedInなどの米国企業が先行し、高成長が続いている。日本の草分け的存在のアトラエは株式市場で新鮮味を持って迎えられそうだ。4月には企業の口コミサイトや人材紹介サービスを提供するグローバルウェイ が東証マザーズに上場したが、初値は公開価格2960円のなんと4.7倍の14000円がついた。
アトラエの事前の想定発行価格は5030円だが、どんな初値がつくか楽しみだ。その仮条件は5月27日、最終公開価格は6月7日に決まる予定。抽選申込期間は5月31〜6月6日、6月7日に当選が発表され、その後の購入申込期間は8~13日、払込期日は14日、そして15日に上場の運びとなる。今回の上場に当たり、9万5000株の新株発行に加え、経営陣など既存株主の12万9000株が売り出される。主幹事は大和証券で、他にSMBC日興、いちよし、岩井コスモが幹事証券会社になる。
アトラエの新規上場株を買うには
店舗型の証券会社は古くから付き合いがある大口投資家にIPOを裁量分配することが多いため、今からIPOの準備をする方や普段多額の取引を行っていない投資家には、オンラインで簡単に口座開設や株取引が行える『ネット証券』が良いだろう。
今回の幹事証券の中で、SMBC日興証券は店舗型とネット型のハイブリッドタイプである。
SMBC日興証券
SMBC日興証券 は店舗でもネットでも取引できる証券会社だが、IPOに関しては総取り扱い株数の1割をネット販売に割り当て、取引高や取引実績に関わらず平等に抽選で分配する方式を採用している。IPO初挑戦の方も小口投資家の方も、SMBC日興証券のネット窓口なら当選が狙えるかもしれない。