日本国債の格下げはありうるのか
G7も終了し、政府内では、消費増税延期の是非を巡る議論が本格化している。これに対し、一部では、日本の国債格付けの引き下げに対する懸念が台頭している。
我々は、消費増税が短期間再延期されるだけならば、格付会社はすぐには格下げしにくいと考えている。既に、前回14年11月の消費増税延期発表後、ムーディーズでは14年12月に格下げを行っており、S&Pも、経済成長鈍化や財政バランス改善の遅れなどを理由に、15年9月に格下げしている(図表1)。
前回の格下げからも間もない上、報じられているような2年半程度の短い期間の先送りなら財政への影響もさほど大きくない。これだけでは、格下げの理由としてはやや弱いと思われる。
従って、我々は、格付けの引き下げは、ひとまず無いか、または、格付けの「見通し」を現在の「安定的」から「ネガティブ」に変更する程度という軽微なレベルに留まる可能性が高いと考える。(注:「ネガティブ/ポジティブ」という格付けの見通しは、1~2年後に、それぞれ格下げ/格上げとなる確率が2~3割程度あることを表す。)
しかし、そもそも日本の国債格付けは、世界最悪レベルという対GDP比債務残高との比較では決して悪くない(図表2)。相対的に高めの格付を付与されている背景には、国の総合的な経済力や将来の徴税力等が加味されていることがある(なお、国内投資家が多いということはあまり加味されていない。投資家層は利回り環境によって容易に変わりうるためだ)。
従って、将来の徴税力を不安視させる増税の再見送りはそれなりの格下げ要因である。過去にも見られたように、こうした税制改定の遅れに、経済成長鈍化やインフレ率の低下(デフレへの逆戻り)などが加われば、もう一段の格下げの可能性は高まる。
以下では、万一日本国の格付けが引き下げられた場合の影響を、為替、金利、金融の3つの側面から検討する。結論としては、為替や国債利回りといったマクロ面への影響はごくごく軽微にとどまるだろう。しかし、過去の格下げ時とは規制や環境が異なるため、新たなリスクも出てきており、銀行や外貨調達の大きい事業法人については、相応のマイナス影響が生じうるだろう。