エンドユーザーの味方、としてのフィンテック
そもそも、フィンテック普及の前提となるIT(情報技術)の成長について、中国では海外勢の参入が制限される中で、地場のITベンチャーによる自国のユーザーのニーズにマッチした開発が行なわれてきたという特徴がある。しかもこの成長が短期間で、急速に進んだという点が大きい。
ネットユーザー7億人という足元にある`国内'マーケットは、とりもなおさず世界最大のマーケットでもある。自国のユーザーのニーズに特化し、新たに開発した金融サービスがそこで受け入れられることが世界的な成長に直結しているのだ。
衆安保険の大株主であるアリババは、インターネット通販に端を発し、商品やサービスの代金を支払うオンライン決済(支付宝・アリペイ)、アリペイの口座内にある小額な資金からの投資が可能なオンライン金融商品(余額宝)の開発、また、オンライン決済口座での取引や与信情報を活用した小口融資(アリ金融)など、このわずか数年で、国内のITと金融サービスの融合を一気に推し進めた。
その際、取り込んだのは、既存金融事業の担い手である大手国有銀行が見向きもしなかった、膨大な数の中間所得層以下の個人顧客である。エンドユーザーの目線に立った、利便性の高い金融インフラを構築し、短期間で中国社会の金融に対する有り方を変え、新たな価値を生み出したのが成功の要因であろう。
また、中国においてフィンテックの普及が急速に進んだ背景には、中国政府や業界の反応の速さもあろう。中国政府は、IT業界からの提言を受け、2015年の政府活動報告で、「インターネット+」(インターネットプラス、中国語:「互聯網+」)として、ITと産業の融合を国の成長戦略の1つに決定した。
経済成長が減速し、これまでの成長戦略を見直す必要に迫られていた政府は、ITによって、既存の産業の新陳代謝をはかり、更なる経済成長を目指すとしたのだ。
金融事業はP2Pが急拡大し、リスクマネーの増加と同時に、業界における詐欺、倒産などの問題も取り沙汰されていたが、政府は2015年7月に「インターネット金融の健全な発展の促進に関する指導意見」を発表した。そこでは、ITによるネット決済、クラウドファンディング、消費者金融、信用情報のプラットフォーム構築などを奨励し、既存の金融機関と連携、共存することで、フィンテックの更なる普及、拡大を促した。
また、保険業界もその数日後に「インターネット保険業務の監督管理暫定弁法」を発表しており、その他の金融事業に先駆けて、インシュアテックの普及を表明している。現時点では、インターネットを専業とする保険会社は、衆安保険を含め合計4社まで増加しており、各社では第2の衆安を目指して、新たなビジネスモデルが日々、模索されている。
〔参考文献〕基礎研レター「 ネット人口、世界最多の6.5億人―ネット専業の保険会社誕生 」(2015年4月21日)
片山ゆき(かたやま ゆき)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部
研究員
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