生前贈与というと「資産家の相続対策」と思う方が多いかもしれませんが、実は事業承継でも有効な手段であることをご存じでしょうか。今回は事業承継に焦点を当てて、生前贈与についてみていきたいと思います。
経営者と生前贈与
生前贈与とは文字どおり生前に贈与することですが、事業承継という視点で見ると、経営者が生存中に特定の後継者に対して株式や事業用資産を譲渡することになります。贈与税は相続税に比べて税率が高いため税率だけで考えると相続の方が有利ですが、生前に財産を贈与した方が遺言よりも確実なため事業承継では多く活用されています。
事業承継における生前贈与のメリット・デメリット
事業承継において生前贈与をするメリットは、経営者の存命中に後継者に対して確実に財産を移転できることです。特に当該事業の株式などは相続人の間で誰が引き継ぐかトラブルになる可能性があるため、事前に対策をとっておく必要があります。
株式会社の場合、重要な事項を決定するためには株主総会の特別決議を行うことになります。特別決議では、株主の議決権の過半数を定足数として、3分の2以上が必要となります。したがって、後継者に絶対的な意思決定ができる権限を与えるのであれば、議決権がある株式を3分の2以上譲渡する必要があるのです。生前贈与により現経営者から特定の後継者に株式を譲渡することができれば、相続人同士で株式を分け合うこともなく、安定した経営を引き継ぐことが可能となります。
また、贈与税では110万円の基礎控除があるので、その範囲内であれば課税されないこともメリットといえるでしょう。長年にわたり事業資産を譲渡することで相続財産額を減らし、相続税の節税にもつながります。
一方デメリットは、事業用資産や株式を相続人である後継者に贈与した場合、特別受益として遺留分による制約を受ける可能性があります。
遺留分というのは、簡単にいうと相続人が最低限もらえる相続財産の取り分をいいます。たとえば、相続人が子供2人だとします。遺言により長男にだけ全財産を与えた場合、弟は最低限全財産の4分の1はもらえる権利があります。
そして、生前贈与は通常、相続財産とは分けて考えられます。なぜかというと、相続人の一部の者が生前に多くの財産を受け取っていることは公平ではないためです。これは、特別受益として遺産分割における相続財産算定の基礎に含まれることになります。もっとも、税法では相続開始前3年以内でなければ加算されないので民法とは取扱いが異なります 。
生前贈与による節税
生前贈与にかかる税金は「贈与税」になります。贈与税にはこれまでも述べてきたように、110万円の基礎控除があるので節税効果が期待できます。ただ、毎年贈与をしていると定額贈与(多額の贈与を分割しているにすぎない)として税務署に否認されるリスクがあるので注意してください。そのため、贈与の際には顧問税理士に相談するなど慎重に行う必要があります。
生前贈与のタイミングとしては、将来値上がりしそうな財産を優先して贈与することもポイントといえます。なぜなら、相続税は相続時点の時価で評価されるため、先に贈与しておいた方が納税額を低く抑えられる可能性があるからです。なお、生前贈与のタイミングと関連して、一定の要件を満たす場合「贈与税の納税猶予」という制度を利用することもできます。これは、経営者が生前に後継者(親族)へ非上場株式を一括で贈与した場合に、株式の3分の2までは贈与税の全額を納税猶予できるというものです 。必ずしも節税になるとは限りませんが、贈与時の価格で算定されるため、将来値上がりが予想される場合には有効な節税対策となります。
ただ、贈与税の猶予制度は要件が多く、適用後も厳しい条件が課されているので、活用する場合には専門家である税理士に相談することをお勧めします。(提供: TRUSTAX )
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