かつて中国のコピー商品市場は、外国人旅行者や出張者がリードしていた。外国人の喜ぶニセモノを作って売る、これこそもっとも手っ取り早い営業利益の実現手法だった。まだ十分なかった経営資源をこれに集中させていた。

今では生産力、内需とも桁違いに大きくなり、コピー商品市は完全に国内市場を向いている。その歴史を振り返りつつ、今後を展望してみよう。

コピー商品市場の歴史

10年前までは各大都市には、必ず大がかりなニセモノ市場があった。北京の「秀水街」上海の「襄陽市場」は、いずれも街の真ん中でアクセス抜群、ここに立ち寄らない外国人はまれだった。

特に1990年代の中国は、体験型アミューズメントを欠き、他に行くべきめぼしい場所もなかった。また上海では外高橋保税区という、法律上は外国扱いの土地にさえ、堂々とニセモノ商店を開業していた。

現在、「秀水街」は高級商品へイメージチェンジを図り、「襄陽市場」は解散させられ、ニセモノ商店は市内各地に分散した。日本人出張者たちも世代交代し、コピー商品を面白がる感性はなくなっている。

このように外国ブランド商品パクリの歴史は長い。衣料品や服飾雑貨では実際に外国一流ブランドのOEM生産を請け負うようになり、ニセモノ作りノウハウはさらに蓄積されていく。そして「外貿商店」という看板を掲げた日欧米向け衣料品の、横流し品、B級品、ニセモノなど出所不明品を扱う店が繁盛した。

しかし2006年以降、ZARA、H&M、ファーストリテイリング <9983> 、良品計画 <7453> など世界的専門店の出店が加速するとともに、この手の店は下火となった。そしてコピー商品の主戦場はネット通販へと移行していく。

ネット通販の発展

中国ネット通販の代名詞となっているアリババ集団の「淘宝網」は、2003年5月に登場した。同年10月「支付宝」という決済システムを供用開始している。これによって顧客は不良品を決済してしまうリスクがなくなり、ネット通販は急拡大する。2010年以降になる、スマホの普及により、さらに爆発的な普及をみせる。

集団の売上は2003年の3400万元から、2015年には3兆2500億元(企業出店主体の“天猫”その他事業を含む)まで拡大した。

消費者は決済においても、法制面(2014年施行の新消費者権利保護法−7日以内の返品自由)でも不良品や気に入らない商品から保護されるようになった。しかしこれは品質やブランドの真贋とは関わりない。

品質問題 ダウンジャケットの合格率は23.9%

2014年冬、中国ダウン製品工業協会が、淘宝・天猫で販売されているダウンジャケットの品質調査を行った。その結果38点のサンプル中、合格は9点、合格率は23.9%だった。

また国家工商総局の発布した2014年下半期「ネット商品定向監測結果」によると、92部門の商品調査の結果、淘宝の正品(本物)率は37.5%と対象ネット業者中最低だった。

また2016年3月15日、中央電視台(CCTV)経済部による消費者権利保護315晩会において、国家質検総局による「越境EC商品抜取り検査」の結果が公表された。それによると輸入児童用品、紙おむつ、ウエットティッシュなどの不良率は33%に及んだ。中には使用を誤れば簡単に児童を窒息させてしまう玩具もあった。輸入元は韓国、タイとある。適当に輸入して外国製として安易に販売しているのだ。こうした態度は、国産でも輸入品でも変わらない。

ブランド問題 エルメスのバッグが1万円未満?

偽ブランドについては、実在の人物に登場してもらおう。40代の女性、毎週ネット通販で何かしらの洋服や服飾雑貨品を購入するという、軽中度の買い物依存症である。ここ1年で買ったコピー商品をいくつか紹介してもらった。

(1) エルメスのバッグ 538元(約8300円)
(2) バオバオイッセイミヤケのトートバッグ 580元
(3) フェラガモのニットワンピース 990元
(4) シャネルの夏用シューズ 450元
(5) アディダスY3のカットソー 350元
(6) カルティエの腕輪 1100元
(7) ルイ・ヴィトンのマフラー 1000元
(8) シャネルのキーケース 450元

などで、購入はすべて「淘宝」である。(2)はいかにもコピー商品で見栄えが悪く、(6)は1年もたず壊れてしまったが、あとの6品は十分気に入っているという。(1)は非常に安くに入手した自慢の一品だ。

もちろん日本や韓国で買った本物も所有している。身の回り品では意識的に真贋を取り混ぜて、楽しんでいるのだ。

会長発言は顧客を意識した本音

このような女性は、すでに億単位で存在しているのではないだろうか。アリババ集団とし馬雲て重要なのは、不良出店者を駆逐することよりも、顧客の期待に応えることだ。

ジャック・マー会長が「中国で作られるコピー商品は、本物に負けない品質だ。しかも本物より安い」と発言したが、こうした国内の顧客層を意識した本音だろう。決して妄言などではない。

これより前の2016年3月29日、アリババ杭州本社で行われた年次大会で、CEOが今後の発展戦略を発表した。それは、社区化、内容化、本地生活化の3大方向という。分かりにくいが、地域毎に特化した対応、他のネットインフラとのコラボ強化、もっと緊密に消費生活体系に関与する、ということらしい。しかしとても漠然としていて、何だか手詰まり感さえある。

マーケティング優先で、品質やブランディングに留意しない企業は、日本市場ではいずれ退場となるものだが、果たしてアリババ集団はどうなるのだろうか。日本と違い判断は難しい。(高野佑介、現地在住の貿易コンサルタント)