「もう少し男を採用し、粘り強く鍛えておくべきだった」

山東省・臨沂市にあるほとんど女性という50人規模の日系バッグ工場では、現在従業員の4分の1が妊娠している。工場長も自らその仲間入りした。ここ1~2年の大幅な戦力ダウンは避けられない。

また同省の青島市は、貿易港をかかえる食料品、衣料品の輸出基地だ。そのため海外から検査機関がいくつも進出し、中国の検査機関と提携し、各製品の品質検査を行っている。世界最大手のSGS(スイス)の研究所は、800人規模という大がかりなものだ。

例えば洗濯テストの場合、洗濯機25台と世界中の洗剤を備え、世界各国の検査基準に対応できる。日系の公的検査機関は、大部分日本向けと一部中国国内向けで、SGSほど大きくはない。それでも各機関50人から150人くらいの陣容を保持している。

そしてそのほとんどは白衣をまとう技術系検査員である。日系検査機関の日本人幹部に聞くと、90%以上女性で、理科系大卒のいわゆる「リケジョ」ばかりだ。理科系大卒男子は働きが悪く、ほとんど使えなかったため、ここ数年採用していない。そしてこれらの機関でも世間一般と同様、アラフォー従業員の第二子妊娠が目立ってきた。彼女らは班長クラスで組織の中核を担っている。長期離脱は大きなマイナスだ。第一子で産休した若い頃とは影響力がまったく違う。

某幹部からは、「こんなことならもう少し男を採用し、粘り強く鍛えておくべきだった」という嘆き節も聞こえた。昨年の一人っ子政策廃止時には、想定していなかった事態である。

当局との決別宣言か?

その山東省は2013年6月、省の人民代表大会の会議において、「二胎間隔規定」を取り消している。これは第二子の申請が許可される場合でも、第一子を25歳までに生んだ場合、30歳以降になるまで最低5年以上間隔を空けないとだめという規定だ。

1988年に制定されている。政策目標としては、当時の認識では出産最適齢期は23~30歳であり、こういう規定を作っておけば大方はあきらめ、一人っ子政策の補強となるに違いないということだったのではないか。江蘇省などは2003年に廃止したが、四川省や北京ではまだ形を変えて残っているという。

山東省政府は、こうした規定の解除、二人っ子政策の発動により、2020年までの5年間で127万人の第二子が出生すると見積もっている。2016年~2018年、第二子ブームの到来も想定内だ。

ただし第二子をもうけようとしたのは、かつて当局から「もはや出産の心配なし」と位置付けられた30歳以上、それもアラフォーが多かった。「自分の人生は自分で決める、当局はもう引っ込んでくれ」という独立宣言のようにもとれる。

こうした状況下、各社どう人員のやり繰りをつけるか苦闘中である。男たちにとっては、思いがけないチャンスが巡ってきたと言えないこともない。また女たちにとって産休延長はプラスだけとも限らない。ともかく当面の間、アラフォー女性の引き起こしつつある労働市場の混乱から目を離せない。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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