経済対策・金融緩和と企業のリストラ再発、どちらが先か

6月の失業率は3.1%と、3ヶ月連続の3.2%から更に低下し、今回の低下局面での最低水準を更新した。強い人手不足を感じている企業の採用活動により、労働力人口が増加したが、しっかり雇用の増加で吸収できている良好な結果である。4月の新年度入り後も有効求人倍率は上昇を続け(3月1.30倍、4月1.34倍、5月1.36倍、6月も1.37倍)、企業の採用意欲はまだ衰えていないようだ。

失業率は賃金上昇が始まる平均的な水準である3.5%を明確に下回り始めている。賃金上昇が1%程度の物価トレンドに結びつく形は既に完成していると考える。しかし、政府・日銀が目指す2%の物価上昇が安定的になるためには、失業率が3%を下回り、2.5%を目指す展開になっていかなければならないだろう。物価の安定を1%程度とみれば自然失業率は3.5%前後、2%程度まで加速を許せば自然失業率は2.5%前後になると考えられる。そこまでにはまだ時間がかかり、更に経済環境が改善していく必要があるが、先行きのリスクも出てきている。

2016年に入り、グローバルな景気・マーケットの不安定感が増し、企業の業況感には悪化がみられ、企業活動には一部に鈍さもみられる。これまでの企業の積極的な雇用拡大に見合う、需要と収益がついてこなければ、これからの労働市場の持続的な改善は見込めないばかりか、一転してリストラが再発するリスクも出てくることになる。グローバルな景気・マーケットの不透明感の解消と、大規模な財政による経済対策、そして日銀の追加金融緩和の効果が、企業のリストラが再発するまでに見られるか、時間との戦いになってきている。

3.5%を単純な自然失業率として、財政による経済対策が必要ないという考え方は、2%の物価目標とデフレ完全脱却を目指す考え方と相容れない。政府・日銀のしっかりとした政策対応がなされ、アベノミクスが再稼動したという認識が企業にも浸透し、2017年には失業率は3.0%を下回り、総賃金の強い拡大がデフレ完全脱却への動きを再加速させていくと考える。物価と雇用の動きは、デフレ完全脱却と2%の物価目標達成のため、まだ政府・日銀によるしっかりとした政策対応の継続が必要なことを示している。

政府・日銀も危機感……世界各国課題は多く

6月の鉱工業生産指数は前月比+1.9%とコンセンサス(+0.5%程度)を上回る結果となった。5月は同-2.3%と、ゴールデンウィークの日並びがよく、工場が長期休暇で操業停止になったところが多かったとみられ、かなり弱い結果であった。6月はその反動で上振れたとみられる。しかし、英国のEU離脱問題を含めグローバルな景気・マーケットの不透明感が強く、生産者は生産計画を下方修正。1-3月期の前期比-1.0%から持ち直しが期待された4-6月期の生産は同0.0%の横ばいにとどまった。

日本経済は、消費・輸出・生産ともに、底割れは回避した後、横ばいの動きになってきた。横ばい圏内から浮上する見通しが立たない中、円高も進行してしまい、生産者の動きは鈍くなっている。しかし、7・8月の経済産業省予測指数は前月比+2.4%・+2.8%と堅調であり、グローバルな景気・マーケットの安定化し、政策対応などにより円高の懸念が和らげば、浮上する可能性も見えてきている。

経済産業省の生産の判断も「一進一退」から「一進一退だが、一部に持ち直し」へ若干だが上方修正されている。もしこのままグローバルな景気・マーケットの不安定感が続き、円高と在庫の増加に対する生産者の警戒感から、生産が「一進一退」の横ばい圏内から上に抜け出せなければ、成長率のトレンドがゼロ近傍となってしまう。2016年に潜在成長率(+0.5%程度)なみの実質GDP成長率(予想も+0.5%)を維持し、2017年にはそれを上回る水準(予想は+1.2%)に加速することは、アベノミクス成功のための必要条件であると考えられるが、リスクは残ってしまっている。

政府・日銀の危機感はかなり大きくなっており、財政による経済対策は大きなものになり、日銀も追加金融緩和に踏み切る可能性が高まっている。裏を返せば、政策・日銀の対応が小規模なものとなれば、マーケットの大きな失望となろうし、企業の在庫・雇用の抑制につながり景気失速のリスクも大きくなろう。年後半には経済対策の効果と、海外経済の持ち直しによる輸出の回復により、生産の基調は緩やかな持ち直しへ改善していくとみられる。グローバルな景気・マーケットの不安定感を各国の政策対応で乗り越え、先進国の堅調の成長がなんとか持続している間に、その好影響が波及して新興国が減速した状態から脱していくのかどうかが輸出と生産の持ち直しの鍵である。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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