周南市や石巻市は百貨店跡を市庁舎に

核テナントが撤退した商業ビルに自治体が入居した例は全国にある。2000年代に入り、地方都市の百貨店が相次いで撤退、空きビル対策が課題に浮上してきたことも影響した。庁舎と商業施設をミックスし、地域のにぎわい拠点を作ろうとする動きも出ている。

山口県周南市は2016年1月、市役所をJR徳山駅近くの旧近鉄松下百貨店跡に移した。新庁舎が完成するまでの仮庁舎で、期限は3年間の予定。本館の1~5階を市役所、6階を市民会議室として利用している。

旧近鉄松下百貨店は市の中心商店街にあったが、業績の悪化に伴って2013年に閉店した。後継店が決まらず、放置されていたことから、市が一時利用することにしたもので、周南市行政管理課は「市庁舎は350人の職員が働き、人の出入りも多い。市の中心商店街からこれ以上にぎわいが消えないよう活気を与えたかった」と狙いを語る。

北海道北見市はJR北見駅前のきたみ東急百貨店が2007年、閉店したのに伴い、空きビルを購入して2011年に入居した。常駐する職員は約300人。税金や戸籍など窓口事務と市議会を置き、建物の名前もまちきた大通りビルと名づけている。

市は人口減少が著しく、中心市街地の活力が失われつつある。北見市総務課は「商業施設の出店がない以上、中心市街地の苦境を救うには市庁舎が入るしかなかった」と苦しい胸の内を打ち明けた。

宮城県石巻市は2010年、JR石巻駅前のさくら野百貨店石巻店跡に移転した。1階にはスーパーを含む商業施設が入居し、市庁舎と商業施設が混在する先進例となっている。百貨店時代のエスカレーターで2~5階へ上ると、市の窓口がある。6階の映画館跡は市議会の議場に改装された。

栃木県栃木市は2014年、福田屋百貨店栃木店跡に庁舎を移した。1階には東武宇都宮百貨店が入り、食料品とギフトショップに特化して営業している。地上4階建ての2階以上を市庁舎が占める。「中心市街地の衰退を防いでほしい」という市民の要望もあり、移転を決断した。

にぎわい復活に期待できない小手先の対応

地方都市の中心市街地は空洞化が止まらない。しかも、百貨店や専門店街の撤退後、取り壊されて駐車場になったり、長く空きビルのまま放置されたりするところも各地に見られる。

百貨店など核店舗の閉店は人通りの減少を一気に加速し、商店街がシャッター通りと化すきっかけになる。しかし、空洞化して人通りが少なくなった中心商店街に進出する大型店はなかなか出てこないのが実情だ。

市庁舎はそれなりの数の職員が働き、住民の利用も見込める。空きビルで残すよりは、中心市街地に足を運ぶ人が多くなる。だが、市役所が駅前や商店街にあるからといって、その地域や商業ビルの魅力アップにつながることはない。住民が中心市街地へ行ってみようと思うきっかけにもならないだろう。

中心市街地ににぎわいを取り戻すには、市庁舎移転のような小手先の対応ではなく、魅力ある街づくりを進めるしか方法はない。しかし、それを実現させるだけの予算もアイデアも、多くの自治体が持ち合わせていないのが悲しい現実だ。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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