アベノミクス政策理論の根幹も、企業貯蓄率と財政収支の相関関係から

国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が、喪失していた。

そして、財政赤字は企業の異常な貯蓄行動と、それにともなう需要不足をオフセットしている状態であるため、財政赤字が大きいが国債金利は低位安定し、財政不安が金利の高騰につながるリスクは小さいと考えられる。更に、企業活動が弱い間は、財政政策を拡大し、ネットの資金需要を復活させ、資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大し、総需要を生み出す力を作らなければいけない、というアイディアになる。

量的金融緩和も、マネタイズすべき対象であるこのネットの資金需要が、存在してこそ効果を発揮するし、ネットの資金需要は円の供給が膨らむ力であるので、円安への動きにもつながる。ネットの資金需要がなければ、量的金融緩和の効果は限定的であるし、円の供給は縮小し、円高圧力になってしまう。

ネットの資金需要を復活させ、量的金融緩和によってそれをマネタイズし、マネーの拡大と円安が名目GDPを拡大させ、それが企業活動を刺激し、企業貯蓄率が正常なマイナスに戻り、総需要を破壊する力が一掃されれば、デフレ完全脱却となる。

企業貯蓄率と財政収支の相関関係から、いろいろな分析と結果が出るし、アベノミクスの政策理論の根幹になっている。

「観察」から得られたものは、次にどうする?

ただ、問題なのは、企業貯蓄率と財政収支の相関関係を見て、アベノミクスはうまくいかず、別の政策が必要であるという、間逆の結論を導くこともできることだ。

相関関係の因果関係が、企業貯蓄率から財政収支の方向に強ければ、アベノミクスをサポートする。だが、逆方向に向いていれば、財政緊縮による財政収支の改善が企業活動を刺激する、という論でアベノミクスを否定することになる。

この因果関係の方向に対する認識の違いが、同じ相関関係のデータを見ても、エコノミストの結論が間逆になることがある原因である。そうなると、エコノミストの重要な仕事の二つ目は「判断」で、何を「判断」するかというと因果関係の向きということになる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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