過去3年以上にわたり世界一の時価総額を維持してきたウェルズ・ファーゴが、JPモルガン・チェースに再び王座を明けわたした。

引き金となったのは、ウェルズの厳しい営業ノルマの重圧に耐えかねた一部の社員による不正営業行為だ。

しかし専門家からは「今回のようなスキャンダルが生じなくても、いずれ失速していただろう」という意見もでており、肥大化した組織の自壊を予感させる象徴的な展開だったといえるかもしれない。

3406万の差でJPモルガンが時価総額1位に

9月13日、社会的信用が音をたてて崩れ、2369億4 000万ドル(約24兆2342億円)まで落ちこんだウェルズの時価総額を、JPモルガンが2402億7000万ドル(約24兆5748億円)で逆転。

不正営業スキャンダルで、9月9日から6%の急落を見せたウェルズ株とは対照的に、JPモルガン株は過去52週間で5.4%上昇。昨年11月の最高値(69.03ドル/約7060円)に限りなく近い66.40ドル(約6791円)を、14日に叩きだした。

ウェルズは不正に関与した従業員5300人を解雇したほか、米消費者金融保護局(CFPB)に1億8500万ドル(約189億2180万円)の罰金を支払うことに同意するなど「和解」の姿勢を見せているが、一旦地に落ちた信用回復には相当の努力と時間を要するだろう。

現在は米連邦検察当局のよる調査が初期段階にあり、ウェルズは記録や資料の提出を求められている。立件決定後、民事事件あるいは刑事事件として扱われるかなどは一切未定だ。
ウェルズはリテール部門のノルマを廃止し、事件の再発防止に全力を注ぐ意向を示している。

消費者に優しい「超優秀銀行」のイメージを一転させたノルマ地獄

「Good Guys(いい銀行)」のイメージがすっかり定着していたウェルズの不祥事は、それが単なる消費者側の愚かな幻想でしかなかったのかという、ある種の虚しさを感じさせる後味の悪いものだ。

設立164年の歴史をもつウェルズは、地方銀行業務から企業向け金融業務、ウェルス・マネージメント業務から海外業務まで、多様な金融分野の頂点で事業を展開する米金融産業の代表的存在だった。

「冷たさ」や「強欲さ」といったネガティブなイメージが薄く、ライバル企業と比較すると消費者からの信用もずいぶん厚かったようだ。

しかし営業スマイルの水面下では、非現実的としか言いようのない熾烈なノルマと成績重視の圧力が社員の良心をむしばみ始め、顧客に無断で預金口座やクレジットカード口座を開設する社員が続出。150万件の口座、57万件のクレジットカード申請が、従業員の裏工作で不正に通されていたという。

なかでも「グループ8」と呼ばれる、ひとりの顧客の8種類以上の商品を販売する戦略に対して最大の非難が集まっており、ウェルズを提訴した米ユタ州の顧客も「詐欺的な戦術をとらない限り達成できないだろう」と、起訴状の中で述べている。

ウェルズ最大の株主、バフェット氏の損失は2046億円?

今回の不正発覚で大きな打撃をうけたのはウェルズだけではなく、株主たちも同じだ。
最大の株主、「オマハの賢人」ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイの損失は、20億ドル(約2045億6000万円)を超えると見られている。

今年6月のデータによると、バークシャーは4億7970万のウェルズ株(127億ドル/約1兆2990億円相当)の株を所有しているが、前年同期比は14%減。今回のスキャンダルの余韻も計り知れない。

バフェット氏がウェルズに目をつけたのは1989年。当時のCEO、カール・ライカート氏の手腕に惚れこみ徐々に所有株を増やし、2008年の金融危機以降、総株の9.5%を独占するようになった。

バフェット氏からは正式なコメントが発表されていないものの、バフェットの「ひと言」が今後ウェルズの株価を大きく左右することはいうまでもない。

コントロール不可能なまでに巨大化しすぎたウェルズ

「ウェルズを買いかぶり過ぎていた」と、バフェット氏の投資家としての才覚に疑いをもつのはお門違いだろうが、ウェルズの栄光の陰りをいち早く察知していた専門家もいる。

米資産管理会社パイパー・ジェフリーは、「規制コストの拡大が懸念される」として、スキャンダル以前にウェルズの信用格付けを降格しており、今回の事件によって手数料収入が著しく落ちこむと予測している。

こうした一連の負のスパイラルはウェルズが巨大化しすぎた結果であり、コツコツと積み上げてきた「超優良企業」としての信用が、コントロール不可能な規模にまで組織が膨らんでしまったことに起因すると、パイパーはコメントしている。

ウェルズは2011年の時点ですでに内部の不正行為を察知し、発覚を未然に防ごうと骨を折っていたが、暴走を食いとめるには組織が過剰成長を遂げていた。細部まで管理が行き届かず、自らの巨大さに押しつぶされたというところだろうか。(アラン・琴子、英国在住のフリーライター)

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