年収・金融資産とマネーリテラシーには明確な差

今年6月に「金融広報中央委員会」(事務局は日銀)がまとめた「金融リテラシー調査2016」が話題を呼んでいる。お金に関する基礎知識に関して、都道府県別に人口構成に合わせて18歳~79歳の2万5千人を対象としたネット調査だ。

例えば、「人生の3大資金とは何か」「金利が上がると債券価格はどうなる」といった金融の基礎的な知識を質問して採点した。その結果、東日本では山梨県、西日本では沖縄県が最も低かったそうだ。山梨県は、昔ながらの金銭の互助組織の「無尽」、また沖縄県は父方の血縁関係が強い「門中」があり、何かあるときにはその結びつきでお互い助け合うので個々人のお金に関する知識が必要ないのでは、という興味深い分析結果が出ている。

さらにこの調査結果を深く見ていくと、年収・資産の高低が正答率に明確に現れていることが分かる。年収でみると、年収250万円までの層の正答率が50.9%なのに対して、年収1500万円以上の正答率は66.3%となっている。また、金融資産の金額別で見ても、資産250万円までの層の正答率が56.7%なのに対して、資産2000万円以上の正答率は73.5%となっている。

そもそも、金融リテラシーとは何を指すのか?

次にこの調査の「金融リテラシー」とは、いったい何を意味するのだろうか。日本証券業協会によると、「金融に関する知識や情報を正しく理解し、自らが主体的に判断することのできる能力であり、社会人として経済的に自立し、より良い暮らしを送っていく上で欠かせない生活スキルです。国民一人ひとりが金融リテラシーを身に付けることは、健全で質の高い金融商品の供給を促し、我が国の家計金融資産の有効活用につながることが期待されます。」(日本証券業協会HPより)と定義されている。

インターネットの普及などにより、ますます複雑化する世の中で、社会人として健全な生活を送れる最低限の金融知識のことを金融リテラシーと総称している。今後人工知能の進歩や仮想通貨の広まりなど、将来の金融システムの変化の在り方に、ある程度の予見を身に着けることが重要だ。

身につけるべき金融リテラシーは「4分野、15項目」

一方、金融庁「金融経済教育研究会」で、最低限身につけるべき金融リテラシーを4分野(家計管理、生活設計、金融知識及び金融経済事情の理解、外部の知見の適切な活用)、15項目を挙げている。その主な項目は、家計の適切な収益管理、インターネット取引の注意点、保険でカバーすべき範囲の認識、住宅ローンを組む時の注意点、金融商品を選ぶ際のリスクとリターンの関係、長期分散投資の効力の理解などである。
金融知識はそれぞれが複雑に絡み合っている。例えば、住宅ローンの選択時、どの金融機関から借りるかに始まって、期間、金額を決め、商品選択の段階で、金利の種類までも我々自身が決定しなければならない。住宅ローンひとつを選択するのに、金利動向まで視野に入れて考える必要があるのだ。そしてこの選択を間違えると、将来かなり大きな差として現れる可能性も出てくる。

金融リテラシーの有無が、将来の資産形成に大きく関わってくる時代に我々は生きている。いろいろな情報源から知識を吸収し、将来の不安を払拭できるくらいの資産形成を目指したい。

代表取締役社長 中村伸一
マネーデザイン
学習院大学卒業後、KPMG、スタンダードチャータード銀行、日興シティグループ証券、メリルリンチ証券など外資系金融機関で勤務後、2014年独立し、FP会社を設立。不動産、生命保険、資産運用(IFA)を中心に個人、法人顧客に対し事業展開している。日本人の金融リテラシーの向上が日本経済の発展につながると信じ、マネーに関する情報を積極的に発信。